令和6年度_2024_助成研究報告集
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図 1. ヨナラン類背景:ウイルス性感染症は人類が不可避の課題であり,特異療法の存在しない感染症は未だに数多く存在する.WHO は熱帯地域の感染症の一部を,2030 年までに制圧を目指す「顧みられない熱帯病(NTDs)」に定め,早急な事態解決を図っている.NTDs の中でもチクングニア熱は熱帯地域に生息する蚊 ( ネッタイシマカやヒトスジシマカ ) が媒介するウイルス性感染症であり,年間 100 万人以上が罹患する.さらに,脳炎 / ギランバレー症候群 / 視覚障害などの合併症を引き起こし,特異療法が存在しないこと,および地球温暖化により蚊の生息域が拡大し,熱帯地域外にも感染が拡大する可能性が極めて高いことから,早急な治療薬の創出が待望されている.一方,多環式ノルセンブラノイドジテルペン類は,沖縄 / 台湾近海のシヌラリア属の軟体サンゴのみから単離される稀少天然物群である.生合成経路を考慮した構造的分類として,本天然物群は次の3 つに分類される(図 1).i) 経路の上流に位置し,生合成中間体である 5- エピシヌレプトリド (3) に代表される非縮環系大環状ノルセンブラノイド類.ii) 経路の下流に位置し,γ - ラクトン構造を含む四環 (5/5/6/7 員環 ) が縮環したヨナラン類 (1, 2, 16, 17).iii) 経路の傍流に位置し,縮環様式の異なる稀少多環式ノルセンブラノイド類 (18, 19, 20).本天然物群は抗菌 ・ 抗炎症 ・ 細胞毒性 ・ 神経毒性など広範な生物活性に加え,強力な抗 CHIKV 活性を示し,分子量が 300―400 であるため,新規低分子創薬シード / リード化合物としての高い可能性を秘めている.しかし,資源である軟体サンゴ自体の稀少性 ・ 偏在性と微量な含有量および培養ができない点が本天然物群の量的供給の課題である.それゆえ,本天然物群の抗 CHIKV 活性の詳細および秘めた生物活性と機能のほとんどは未解明であり,創薬研究に活用されていない.実験方法我々は,生合成経路を「逆」にたどる革新的な合成戦略を立案した.具体的には,生合成経路の終点に位置する縮環系ヨナラン類 : スカブロリド A (1: 抗 CHIKV,抗炎症作用 ) およびヨナロリド (16: 抗 CHIKV) から提唱されている生合成経路とは「逆」に (1 → 16 → 2 → 3),生合成経路の上流に位置する非縮環系大環状ノルセンブラノイド類 5- エピシヌレプトリド (3: 抗 CHIKV,抗がん活性 ) を全合成する ( スキーム 1).また,併せて共通中間体 1 からの網羅的全合成戦略を生合成経路の傍流に位置― 89 ―

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