していることが報告されており,次世代創薬のシード化合物としての活用が期待されている 1).今回標的とする二量体型インドールアルカロイドの中には,臨床にて抗がん剤やマラリアの治療薬に用いられている化合物も存在するだけなく,ヒト骨肉腫細胞に対してアポトーシス非依存的なオートファジー細胞死を誘導するなど,他の天然物ではあまりみられない特異な作用機序を示す化合物も報告されている.本研究ではこれらの化合物を活用し,製薬企業が手の届きにくいアフリカ難病に向けた創薬や他の小分子医薬品にはない特異な作用機序を持つ新規抗がん剤の開発を目指す.上述の通り,二量体型天然物は創薬において魅力的な化合物群であるが,天然からの供給量が限られる問題や現代の有機合成による供給の限界により,複雑な骨格を有する化合物の多くが創薬の研究対象から除外されているのが現状である 2).有機合成による創薬研究を阻んでいる最大の理由が,両ユニットの連結の難しさにある.さらに,二量体型天然物はそれぞれ多様な結合様式を有しているため,標的化合物の構造に応じたカップリング反応を開発する必要があり,標的化合物の合成に長い年月や労力を要する.このような研究背景のもと,本研究では二量体化合物を基盤とした包括的な創薬研究を推進するための,画期的な方法論の確立を図る.すなわち,化合物の構造や結合様式,共存する官能基に依存せず,多様な二量体型化合物の収束的合成を可能とする,新規カップリング法の開発を目指す.本研究の遂行は,化合物供給の困難さがボトルネックとなり立ち後れていた本化合物群の合成効率を飛躍的に高め,創薬天然物ライブラリーの拡充ならびに新たな医薬品シーズの発掘に繋がるものと期待される.実験方法多様な二量体型化合物の統合的合成を実現する,新たなカップリング法の確立にあたって,天然物の生合成経路に着目した.多くの二量体型天然物は,生体酵素の持つ精密なレドックスシステムのもと,基質のピンポイント酸化を経た両基質のカップリングが巧みに行われ,生合成されている.そこで,酵素を模倣した触媒設計により,反応性と化学選択性といった,言わばトレードオフの関係にある二つの性質を同時に満たし,かつ特定の天然物群に留まらず,多様な二量体型天然物への適用を可能とする統合的な合成戦略を確立できると考えた.ごく最近,申請者らは生体酸化酵素シトクロム P450 のヘム鉄を模倣した触媒設計のもと,インドールの酸化的二量化反応を開発した.この反応において,フタロシアニン錯体 FePc(CO2H)8 が高い酸化能と官能基共存性を示すことを見出した 3).本研究では,独自に開発した方法論を基盤とし,結合様式の異なる下記の3つの化合物群に焦点を当て,二量体型化合物ライブラリーの迅速かつ網羅的な構築を目指す(図1).① アミノ酸由来二量体型生物活性天然物の高収束的全合成② フェノール由来二量体型生物活性天然物の高収束的全合成③ モノテルペンインドール由来二量体型生物活性天然物の高収束的全合成― 84 ―
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