おわりに本研究では,進行がんに対する新たな治療標的として「核小体」に注目し,その機能に影響を与える低分子化合物のスクリーニングと評価を AI 画像解析技術と組み合わせて実施した.これまでに 9種の有望なヒット化合物を同定し,そのうちの複数が白血病細胞の増殖抑制能を有することを確認した.重要なことは,5-FU や Ara-C,Decitabine などの白血病治療で用いられる既存薬では核小体への影響を介して細胞死を誘導するものはなかった.このことから,核小体を標的とした白血病治療薬はファーストインクラスの創薬になることが考えられる.今後は,これらの化合物についてライブラリー内に含まれる類縁化合物や同一経路を標的とする他化合物との比較検討を進める.さらに,in vivo マウス白血病モデルおよびヒト白血病 PDX 細胞を用いた評価に展開し,臨床応用の可能性を追求していく.これらの成果は,AI と画像解析を活用したがん創薬に新たな展望を与えるものであり,治療抵抗性を克服するための革新的アプローチとして期待される.謝 辞この研究は,公益財団法人 中外創薬科学財団の令和 4 年 (2022 年 ) 度 研究助成金Ⅰ交付により遂行されたものです.また,一部は京都大学橋渡し研究プログラムの支援を受けて実施しました.この場を借りて深く御礼申し上げます.本研究は京都大学医生物学研究所がん・幹細胞シグナル分野にて行いました.研究室員の伊藤貴浩教授,松浦顕教助教および柳沢誠博士ほか,関係者の皆様に御礼申し上げます.引用文献…1. Hattori, A., Tsunoda, M., Konuma, T., Kobayashi, M., Nagy, T., Glushka, J., Tayyari, F., McSkimming, D., Kannan, N., Tojo, A., Edison, A. S. & Ito, T. Cancer progression by reprogrammed BCAA metabolism in myeloid leukaemia. Nature 545, 500–504 (2017).2. Gupta, S. & Santoro, R. Regulation and Roles of the Nucleolus in Embryonic Stem Cells: From Ribosome Biogenesis to Genome Organization. Stem Cell Rep. 15, 1206–1219 (2020).― 72 ―
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