令和6年度_2024_助成研究報告集
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図1.本研究の概要法の開発は予後改善に大きく貢献する可能性がある.この長期目標のもと,私たちの研究室では白血病をモデルとしてがん悪性化の分子機構の理解に取り組んでいる.特に,進行がんに特徴的な変化が持つ意義に注目し,分岐鎖アミノ酸代謝の亢進が慢性骨髄性白血病の悪性化とがん幹細胞維持に必須であること等を解明してきた 1).最近,白血病の悪性化に相関して,「核小体」の動態が変化すること,また核小体制御因子 Nucleolin (NCL) の機能阻害によって幹細胞活性が失われ,白血病が寛解すること等を発見した.核小体の数や形が変化することは,造血器腫瘍の臨床においても経験的に知られている.またヒト ES 細胞などの幹細胞を in vitro 培養で観察すると繊維芽細胞等と比較して核小体が増大していることも報告されている 2).しかしながら,核小体の動態と幹細胞活性の相関やがん悪性化への機能的関与については殆ど解明されていない.マウスモデルやヒト白血病細胞株を用いた解析から私たちは「核小体の機能亢進が,白血病の幹細胞活性維持に必要である」との着想に至った.すなわち,核小体の機能や動的変化を阻害することで,骨髄性白血病の新たな治療戦略の開発につながると予想し,そのような活性を有する化合物を同定するスクリーニング系を樹立することを目的に本研究を実施した(図1).実験方法(図2)白血病細胞株 5 種 (K562, KCL-22, MV4-11, HL60, U937) を比較し,核小体の観察に適した KCL22細胞株を選定した.核小体標識用に Nucleolin(NCL)-GFP 融合遺伝子,核標識用に H2B-mCherry融合遺伝子を導入し,核と核小体それぞれを可視化可能な細胞系を樹立した.加えて,今後のゲノム編集スクリーニングへの応用のため,ドキシサイクリン誘導性の Cas9 発現プラスミドも導入している.核小体に影響を与える既知薬剤(ドキソルビシン,アクチノマイシン D,マイコフェノール酸)を用い,適切な濃度と核小体変化の特徴量を抽出した.また,ネガティブコントロールとして DMSO条件下の細胞についても,3 時間ごと 48 時間まで 384well プレート 13 枚分の画像データを取得した.脂質やミトコンドリアの可視化データも同時に取得し,マルチモーダル解析が可能なデータセットを構築した.HACARUS 社との共同研究により,以下 3 種の画像特徴抽出法を用いた AI 画像解析法を開発中した:1. 人工的に定義された核小体特徴量,2. GLCM を用いたテクスチャ解析,3. Deep Learning に基づく画像分類.これらを組み合わせた多層的特徴解析により,正常/異常核小体の自動分類を可能にした.― 69 ―

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