令和6年度_2024_助成研究報告集
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Ⅲ.線維化腫瘍マウスモデルの確立低栄養下にあることが知られる膵がんの腫瘍微小環境において,CAFsが膵がん細胞の産生する乳酸を取り込み,栄養源としていることを見出した.また,乳酸を取り込んだCAFsではIL-6などの抗炎症性サイトカインの産生が増加し,抗腫瘍免疫を抑制していることを明らかにした.さらに線維化を伴う膵がんマウスモデルにおいて,乳酸産生を制御する主要な酵素であるLactate dehydrogenase A(LDHA)を阻害することにより,腫瘍内の線維化改善や免疫細胞浸潤増加を認め,腫瘍縮小効果が得られた(図5)2).図5.膵がんCAFsによる免疫抑制微小環境の形成肝細胞癌(HCC)は主に慢性肝炎から発展することが知られており,中でも非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は肥満と代謝疾患の増加により,HCCの主要な原因となっている.15-PGDHの発現低下によるPGE2の蓄積がNASH-HCCの発展にどのように関与するかを明らかにするために,15-Pgdh+/-マウスにおいてNASH-HCCモデルを確立し,PGE2蓄積の重要性を評価した.腫瘍微小環境(TME)でのPGE2の蓄積がマクロファージにおけるROSの産生および細胞増殖に関わる遺伝子発現を誘発したことを明らかにした.一方,背景肝での脂肪酸代謝低下は,TMEにおける脂肪酸の蓄積を促進し,CD8+ T細胞のミトコンドリア膜電位低下と機能低下を引き起こすことが分かった.15-PGDHの発現低下は免疫監視の阻害とNASH-HCCの進行に寄与し,PGE2関連の炎症と脂質蓄積の制御がNASH-HCCの進行抑制につながることが示唆された(図6)3).― 65 ―

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