― 62 ―主体としたストローマの改変が腫瘍免疫に与える影響は解明されておらず,免疫チェックポイント阻害剤との併用療法の可能性を検証することは今後の重要な課題である.これらを背景とした本研究の目的は,線維化を伴う難治がんにおいてストローマ改変による腫瘍免疫賦活化メカニズムを基盤とした,免疫チェックポイント阻害剤との併用療法を確立することである.実験方法Ⅰ . 胃癌組織を用いた候補分子の発現検討胃切除を施行された臨床サンプルを用いて,CAFs の主要なマーカーであるα SMA の免疫染色・定量化を行い予後との相関を比較したところ,CAFs が多い胃癌症例 (CAF-high) では有意に予後不良と相関することが明らかになった.胃癌組織中の腫瘍間質(CAFs)における増殖因子レセプター発現,胃癌組織型との関連性について検討した.Ⅱ . スキルス胃癌シンジェニックマウスモデルの確立シンジェニックマウスモデルは従来の免疫不全マウスへの xenograft と異なり,免疫系を完全に保持しているため免疫微小環境の評価に有用である.本研究において私たちは,慶應義塾大学の永野修ら(佐谷秀行研究室)が,新たに樹立したマウス胃がん細胞 (KP 細胞 ) のシリアルトランスプラントにより,腫瘍の線維化と腹膜播種転移を特徴とするスキルス胃癌シンジェニックマウスモデルの作製をおこなった.Ⅲ . 線維化腫瘍マウスモデルの確立(膵臓癌,NASH/HCC)消化器領域において組織の線維化を特徴とする疾患としては膵臓癌,慢性肝炎後の肝硬変が挙げられる.私たちは PGE2 の分解酵素として知られる 15-PGDH 遺伝子欠損により,PGE2 が著明に蓄積し組織学的にも膵臓癌を形成するマウス(PgKC マウス)を樹立している.このマウス膵腫瘍ではヒト膵臓癌の特徴である強い線維化を伴っていることを既に確認している.また肝硬変のマウスモデルとしては,15-PGDH 遺伝子欠損にストレプトゾシンと高脂肪食を組み合わせた NASH/HCC マウスモデルでは,高度な肝臓の線維化と腫瘍形成を認める.この NASH/HCC マウスモデルは私たちの研究室において大学院生が作製に従事してきた.これらのマウスモデルは組織の線維化をベースとした自然発症型の腫瘍モデルであり,慢性的な炎症反応の結果として起こる線維化さらには腫瘍形成に重要な活性化シグナルを検証するには最適な動物モデルである.結果及び考察Ⅰ . 胃癌組織を用いた候補分子の発現検討びまん性胃癌の間質では正常胃粘膜と比べてほぼ全例で PDGFR βを発現し,さらに 50% を超える症例で PDGFR βを強く発現していた.また,そのリガンドである PDGFC/D の発現が高い胃がん症例は有意に予後不良であった(図1).CAFs を活性化するシグナルとして PDGF/PDGFR に注目し,CAFs の増生,遺伝子発現の変化など様々な視点から検討をおこなってきた.なかでも PDGF刺激によって活性化した CAFs を用いて RNA シーケンシングをおこなった結果,腫瘍免疫抑制に深く関わる骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSCs) を腫瘍内に誘導するケモカインの発現が上昇することを同定した.
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