に取り組むことを目的として本研究を開始した.実験方法我々は single cell RNA-seq により移植後残存 TIM-3+LSCs の遺伝子発現解析を行い,複数症例で共通して残存時特異的に発現上昇する遺伝子群を抽出し,残存時ヒト白血病幹細胞に特異的に高発現する遺伝子として,スフィンゴシン1リン酸受容体(S1PR1)を同定し,本研究計画では S1PR1 分子の機能解明に取り組んだ.S1PR1 分子は G タンパク質結合型受容体であり,そのリガンド,あるいは下流シグナルについて解析を行った.結果及び考察臨床検体を用いた S1PR1 の細胞表面発現解析を行い,実際に診断時と比較して,治療後残存潜伏時の白血病幹細胞分画で S1PR1 のタンパクレベルでの発現上昇と,antagonist による S1PR1 の内在化を確認した.すなわち,遺伝子発現レベル亢進で同定した S1PR1 が実際の治療抵抗性残存白血病幹細胞において,タンパクレベルで発現上昇が生じていること,このレセプター分子が内在化することから機能的にアクティブであると考えられた.また,初診時から S1PR1 を細胞表面に発現するAML 細胞株および患者 AML 細胞が存在することも確認した.すなわち,S1PR1 自体は,治療抵抗性に関与する可能性が高い分子であるが,ベースラインとして AML 細胞に発現することもある分子であることが確認された.一般的に S1PR1 は T 細胞に発現し,そのリンパ節から末梢血,あるいは炎症部位へのホーミングに関与することが知られている.T 細胞においては,S1PR1 のリガンドとして S1P が知られている.我々は S1P の合成系律速段階酵素 SPHK1/2 がヒト AML 細胞において発現していることを確認した.したがって,我々は,S1PR1 のリガンドである S1P を AML 細胞自身が合成し,autocrine 様式で作用している可能性を考えた.そこで,SPHK1/2 の特異的阻害剤を用いて in vitro で S1PR1 発現AML 細胞株,および S1PR1 陽性患者 AML 細胞に対して,濃度依存的なアポトーシス誘導を確認した.すなわち,AML 細胞における S1P-S1PR1 autocrine 経路が細胞生存に重要な機能を有していると考えられた.現在,この特異的な阻害剤を用いた免疫不全マウスへの異種移植実験を行い,in vivoでの治療モデルの構築に取り組んでいる.また,S1PR1 は G タンパク質結合型受容体であり,その下流に PI3K あるいは RAS/MAPK 系が存在していることが知られている.現在,AML 細胞における下流シグナル伝脱分子同定に取り組むと同時に,網羅的遺伝子発現解析による S1PR1 シグナルの下流で作用するエフェクター分子群の同定にも取り組んでいる.おわりに治療抵抗性 AML 細胞の根絶につながる新規治療法確立のために,本研究を継続し,詳細な下流シグナルを含めた S1PR1-S1P axis の包括的解明に取り組みたい.謝 辞本研究助成を通して研究のサポートをいただきました公益財団法人 中外創薬科学財団に感謝申し― 56 ―
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