令和6年度_2024_助成研究報告集
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(ii)さまざまな刺激によって,MED26 を含むメディエーター複合体が,SEC と LEC の標的遺伝子領域に Pol II をリクルートする機構を解明する.●野生型 MED26 と MED26-NTD に変異を有する変異型細胞を用いて,血清刺激時や細胞周期の S 期に MED26 を含むメディエーター複合体が Pol II を SEC や LEC の標的遺伝子領域にリクルートするのかを解明する.● MED26 は 70%以上の天然変性領域(IDR: Intrinsic Disordered Region)を含んでおり,液滴形成に関与することが明らかとなった 6).そこで,MED26 に dTAG(degradation TAG)を融合させた細胞を用いて,MED26 の急速な分解によって,細胞の増殖や分化刺激時,あるいは細胞周期の S 期に,SEC や LEC の液滴形成能がそれぞれ減弱するのかを解明する.(iii)さまざまな組織幹細胞の増殖から分化への移行において,MED26 が果たす役割とその分子機構について解明し,MED26 の組織・個体における機能を明らかにする.●細胞の増殖から分化への移行時には,異なる遺伝子領域に MED26・メディエーター・Pol II 複合体がリクルートされ,遺伝子発現を促進すると考えられる.そこで,iPS(induced Pluripotent Stem cell)細胞を用いた細胞分化システムを用いて,分化前と分化後に SEC や LEC の標的遺伝子領域やMED26・メディエーター・Pol II 複合体がリクルートされる遺伝子領域を in situ ビオチン化法によって同定する.野生型 MED26 と MED26-NTD に変異を有する MED26 変異型細胞を用いて,血清刺激時や熱ストレス刺激時,細胞周期 S 期に MED26 を含むメディエーター複合体が Pol II を SECや LEC の標的遺伝子領域にリクルートするのかを解明する.●作製済みの MED26 コンディショナルノックアウトマウスを各種 Cre マウスと交配させ,様々な組織由来(精巣,卵巣,造血,神経,肝臓など)の幹細胞で MED26 をコンディショナルにノックアウトする.幹細胞の増殖から分化への移行時に,MED26 が必須であるのかについて解明する.結果及び考察本研究によって,MED26 を含むメディエーター複合体は液ー液相分離によって核内で ” 場 ”(液滴)を形成し,そこで腫瘍関連遺伝子やストレス応答性遺伝子の転写を統合的に促進することが明らかとなった(論文投準備中).また,ヒトパピローマウイルス感染によって引き起こされる子宮頸がん細胞においては,MED26 と SEC が c-Myc 遺伝子の上流においてスーパーエンハンサーと呼ばれる液滴を形成し,子宮頸がん細胞の増殖を促進する機構も明らかとなった 7).今後,MED26 による転写制御機構の亢進が腫瘍性疾患を引き起こすメカニズムを明らかにする.また,液滴による転写制御機構の解明のために,液滴や凝集体の構成因子を網羅的に同定する新規の手法として,in situ ビオチン化法の開発を行った.この手法を用いて核内構造体 Cajal body や核小体,γ H2AX の構成因子の解析を行ったところ,既知の因子に加えて,多くの新規因子を同定することができた 8, 9).現在,in situ ビオチン化法を駆使して,MED26 の液滴構成因子の網羅的同定を行っている(論文投稿準備中).受精卵の初期胚を用いた解析も行ったところ,MED26 は初期杯発生にも重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた.また,MED26 は精巣や卵巣で発現が高く,MED26 のコンディショナルノックアウトマウスを用いた解析によって,MED26 は精巣幹細胞における分化にも重要な役割を果たす可能性がわかってきた.― 49 ―

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