備わっておらず,精巣に続く生殖路である精巣上体を通過するあいだに機能的に成熟することが知られている.精巣上体の何らかの管腔内環境が引き金となって精子が成熟すると考えられるが,精巣上体で生じる精子の機能的な変化を捉え評価することは難しく,精巣上体に発現する何がどのように作用することで精子の生殖能力を制御しているのかについては,これまでほとんど何もわかっていなかった.研究代表者は,ゲノム編集動物の作製によって生殖を制御する細胞外因子の探索をスクリーニングした結果2-6),生殖路管腔を通じて「ルミクリン」という遠距離の分泌シグナル伝達によって精巣上体における精子成熟が制御されていることを見いだした(図1)7-9).本研究ではこのルミクリン機構を手掛かりに,生殖路による精子成熟の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした.図1.ルミクリンによる精巣上体の機能の制御ルミクリン因子NELL2は精巣内で産生され生殖路を通じて精巣上体のROS1に結合する.ROS1の活性化により分化した精巣上体の上皮細胞は,OVCH2をはじめとする種々の分泌蛋白質を生殖路内に放出する.これによって生殖路内の環境を精子の成熟に適したものに作り変えている(文献9より引用).実験方法本研究では生殖路による精子成熟機構を検討していくうえで個体レベルの機能解析を方法の主体とした.研究代表者が見出した「精子成熟機構を制御するルミクリンシグナル伝達」に着目しながら,以下の実験を行った:1.精子成熟を制御する新規な因子の同定精子成熟を最上位で制御するルミクリンシグナル伝達機構の分子機構を明らかにするために,シグナル伝達経路を構成する因子の候補のノックアウトマウスをゲノム編集によって作製し,その表現型解析を行った.2.精巣上体のプロファイリング精子成熟の場となる生殖路である精巣上体がどのようにして機能制御されているのかを明らかにするために,ルミクリン関連因子のノックアウトマウスに加えて,薬理学的や実験動物学的処置を施したマウスの精巣上体の遺伝子発現プロファイルを行った.結果及び考察1.精子成熟を制御する新規な因子の同定精子の成熟を上位制御するルミクリンシグナル伝達の構成因子として分泌リガンド蛋白質NELL2および受容体ROS1が同定されているが,同様にルミクリンに関わる新たな構成要素として分泌蛋白質NELL2-interacting cofactor for lumicrine (NICOL)を同定した(図2a)10). NICOL欠損マウス― 41 ―
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