令和6年度_2024_助成研究報告集
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はじめに関節リウマチ (Rheumatoid arthritis: RA) は,関節の滑膜炎を特徴とする慢性炎症性の自己免疫疾患である.RA 病態の進行に伴い,滑膜細胞の増殖による滑膜の肥厚や骨・軟骨破壊により全身的に運動機能が障害され,患者の QOL は著しく低下する.近年,メトトレキサート,生物学的製剤やJanus kinase (JAK) 阻害剤といった新たな抗リウマチ薬が登場したことにより,RA の治療効果は大きく進歩した.しかしながら,これらの薬剤による治療でも,推定国内患者数 80 万人のうち,およそ 20% 以上の患者では未だに治療効果が十分でない(疾患活動性:高度および中程度)ことが報告されており,更なる新規治療法開発が望まれている.そのためには,RA 病態制御の分子機構の解明による新規治療標的分子の同定とその分子を標的とする治療法の開発が必要である.我々は,RA の新規治療標的分子の同定を目指し,先行研究データや Gene Expression Omnibus (GEO) に登録されている複数の関節炎モデルマウス (CAIA, CIA, K/BxN-STA) やヒト RA 患者の滑膜を用いた遺伝子発現プロファイルのゲノムワイドデータの統合解析を実施した.エピゲノム制御因子に焦点を絞って解析したところ,DNA の維持メチル化に重要な因子である Uhrf1 (Ubiquitin Like With PHD And Ring Finger Domains 1) が抽出された.そこで,遺伝子改変マウスや臨床サンプルを用いて解析した結果,UHRF1 発現を維持することで様々なリウマチ病態を増悪する因子の遺伝子発現を抑制すること,UHRF1 タンパク質の分解を抑制することで,関節炎病態が改善することを見出し,報告した 1).上記の先行研究では,エピゲノム制御因子に焦点を絞って解析したものの,そもそも,non-bias なゲノムワイド統合解析を駆使することにより関節リウマチの新規治療標的を探索する必要があるのではないかと考え,解析対象を全遺伝子に拡大することとした.実験方法(GEO) に登録されている複数の関節炎モデルマウス (CAIA, CIA, K/BxN-STA) やヒト RA 患者の滑膜を用いた遺伝子発現プロファイルの統合解析を実施した.Bub1 flox マウスを独自に作製し,LysM-Cre マウスを交配することでミエロイド系細胞特異的Bub1 遺伝子欠損マウスを作出.関節炎モデルを誘導し,関節炎表現型,組織学的および X 線学的解析を行なった.M-CSF,RANKL 投与により骨髄由来初代培養破骨細胞を作製し,RNA-seq による遺伝子発現プロファイルと TRAP 染色による破骨細胞形成能を評価した.結果及び考察各種マウス関節炎モデル・RA 患者の滑膜において共通して発現上昇を認める 41 遺伝子群を同定した.更に,この遺伝子群の Gene Ontology エンリッチメント解析を行ったところ,炎症に関連する既存の遺伝子群(TNF αや IL-6 などの炎症生サイトカインや MMP3 などの基質分解酵素など)が有意に濃縮されていることに加えて,細胞分裂に関連する遺伝子群が上位に濃縮されていることを見出した.この遺伝子群の関節炎病態における発現変化を K/BxN-STA マウス由来関節炎組織(図 1.a)を用いて RT-qPCR で解析し,また,遺伝子発現 - 疾患活動性の相関を公開されている Pathobiology of Early Arthritis Cohort (PEAC) RNA-Seq Data を用いて再解析した(図 1.b).その結果,紡錘体形成チェックポイント因子として知られる BUB1 (Serine/Threonin protein kinase) の発現が顕著に― 36 ―

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