令和6年度_2024_助成研究報告集
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はじめに動的速度論的光学分割(DKR)は,一方のエナンチオマーを選択的に変換する(光学分割,KR)と同時に原料をラセミ化させることで,ラセミ体を単一の光学活性体へと定量的に変換する有益な手法である.しかし DKR の実現には多くの場合,複数の触媒を必要するため,触媒どうしの共存が難しいこと・副反応が生じやすいことから制御が困難であり医薬品製造などへの実用化には至っていない 1).そこで私は,Pickering エマルションを用いた第三級アルコールの DKR 法を開発することとした.実験方法シリカナノ粒子の表面をメチル化修飾した両親媒性ナノ粒子を調製し,トルエンと硫酸水溶液を加えて高速攪拌することにより,酸を内包した Pickering エマルションを形成した(図 1)2).これを反応場とし種々第三級アルコールのラセミ化,および DKR の検討を行った.図 1. 両親媒性シリカナノ粒子により安定化された Pickering エマルション結果及び考察前述のとおり,まず酸を内包した Pickering エマルションを用いて第三級アルコールのラセミ化を行った.このとき,温度あるいは硫酸水溶液の濃度を調節することで,良好な収率で目的のラセミ化体を得た.一般に,酸触媒的な第三級アルコールのラセミ化では二量体をはじめとする副生成物が多量に観察される.それに対し本手法では,酸水溶液との接触によりラセミ化が進行するため,カチオン中間体が水と速やかに反応することで副反応を抑制できたと考察される.続いて,第三級アルコールの KR を検討した.すなわち,低濃度の酸水溶液を内包した Pickering赤井 周司 大阪大学薬学研究科薬品製造化学分野・教授文 志勲― 325 ―Pickering エマルションを活用する多成分触媒反応の開発

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