結果及び考察変形体のプレコンディショニングとロングリードシーケンサーを用いた新たな方法論でアセンブルを行った結果,RAVEN を用いた場合において非常に高い精度でのアセンブルが作成された.N50 は681 kb であり,完成度を表す BUSCO スコアは 91% に達した.これは先行研究での最高値であったBUSCO スコア =59%,N50 = 54 kb を大きく上回るものであり,ゲノムアセンブルとして十分な水準にある.また問題視されていたコンタミネーションはプレコンディショニングにより完全に除去することはできなかったが,減少させることには成功し,最終的にはシーケンスリード全体に対して約2 割に抑えられた.さらにその配列も変形菌とは GC 含量が大きく異なるため,インフォマティクス的に除去することに成功した.おわりに本研究で示された系により短期間の小規模な培養をベースとした変形菌のフィールドサンプルにおける de novo ゲノムアセンブルの作成が可能となり,さらに高い効率で変形菌を対象としたゲノムマイニングによる新規天然有機化合物探索が可能となった.これらの成果は日本菌学会第 68 回大会,第 47 回日本分子生物学会年会,第 23 回山形分子生物学セミナーで報告した.さらにゲノムリファレンスの有用性はそれにとどまらない.変形菌においては,個体間認識による複雑な行動決定(自他認識)等の興味深い生態が数多く知られており,ゲノムリファレンスがこれら生態の分子的バックグラウンドに迫る上でも必要不可欠なものとなるため,本プロトコルとリファレンスデータによる様々なテーマにおける分子的アプローチの発展が期待できる.謝 辞本研究は慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の河野暢明准教授,同大先端生命科学研究所の技術員の高井幸氏と土門真綾氏にご指導/ご協力いただきました.また本研究は公益財団法人 中外創薬科学財団奨学金のご支援のもと遂行することができました.皆さまに心より感謝いたします.引用文献 1. https://doi.org/10.5943/Mycosphere/6/6/1, 20152. https://doi.org/10.1016/j.fitote.2020.104725, 20203. https://doi.org/10.1093/gbe/evv237, 2015― 324 ―
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