河野 暢明 慶應義塾大学大学院政策メディア研究科河野暢明研究室・准教授はじめに近年,複数の抗生物質に強い耐性を持つ多剤耐性菌の存在が危険視されている.そこで注目されるのが,生物が持つ天然有機化合物である.自然界には有用な分子が数多く存在しているが,その探索対象にできている生物はごく一部であり,対象を広げることでまだ見ぬ天然化合物を得ることが期待される.その中でも特に未開拓な生物が変形菌である.変形菌はアメーボゾアに属する生物であり 1),寒冷地から熱帯に至るまで様々な場所に生息しており,細菌や真菌等の微生物を捕食していることからも,様々な抗生物質等の有用な有機化合物を持つ可能性が高く注目されている 2).そこで本研究はゲノムマイニングによる変形菌における新規天然有機化合物の探索系を整備することを目的とする.ゲノムマイニングは既存の大量培養から分子の構造解析まで一連のコストのかかる系とは異なり,インフォマティクス的に大規模な候補群を用意することができる点でこれらが困難な変形菌に適した手法であると言える.しかし変形菌においてはそのゲノム情報が一種しか登録されておらずその精度も低いだけでなく 3),コンタミネーションの除去ができていない.その原因として,先行研究が用いたショートリードシーケンサーによる手法では大規模なリピート配列に対応できないことが挙げられる.そこで,本取り組みでは栄養体である変形体の実験室環境でのプレコンディショニングによるコンタミネーションの削減と,ロングリードシーケンサーを用いた手法による de novo ゲノムアセンブルの系の確立を行う.実験方法変形体のフィールドサンプルは無栄養の寒天培地と,滅菌済みのオートミールを与えつつ 3 日ごとに培地を交換することで,細菌等の繁殖を抑える培養を行った.変形体サンプルからは NucleoBond HMW DNA( タカラバイオ株式会社 ) を用いることでゲノム DNA を 抽 出 し た.gDNA は Oxford Nanopore Technologies 社 の ロ ン グ リ ー ド シ ー ケ ン サ ーPromethION でシーケンスが実施された.シーケンスデータはクオリティチェックの後,Flye,RAVEN,PECAT のツールで de novo ゲノムアセンブルを行った.アセンブルは N50 と完成度を表す BUSCO スコア(eukaryota_odb10)で評価した.コンタミネーションの確認として UniProt のプロテオームデータをデータベースとした BLASTX 検索を実行した. 増井 真那― 323 ―変形菌を対象とした新規天然化合物探索系の整備
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