令和6年度_2024_助成研究報告集
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はじめに心不全は,心筋における脂肪酸代謝をはじめとするエネルギー代謝障害が生じることが知られている.この代謝障害は心不全の重要な治療標的であるにも関わらず,依然として特異的な治療方法が存在しない.β- アミノイソ酪酸 (β-aminoisobutyric acid : BAIBA) は,運動によって骨格筋から産生されるExerkine であり,白色脂肪細胞の褐色化や,肝臓での脂肪酸のβ酸化の亢進を介して代謝の恒常性に寄与することが知られている 1).我々は先行研究で BAIBA が心不全患者のエネルギー代謝と関連する可能性を報告した 2).本研究では,BAIBA がエネルギー代謝の向上を介して心不全を改善し得るかの検証を行った.実験方法1. In vitro 実験H9c2 ラット心筋芽細胞を使用し,BAIBA 100μM,48 時間処置した.BAIBA 処置後,24 時間経過時点で Doxorubicin (DOX) 1.0μM を培地に添加し,細胞障害を誘導した.その後,LDH アッセイおよび,Seahorse アッセイによって,DOX による細胞障害を BAIBA が抑制し得るかを検討した.2. In vivo 実験C57BL6/J 由来の若齢マウスを,Control 群,BAIBA 投与群,DOX 投与群,DOX+BAIBA 投与群に無作為に群分けした.BAIBA は 150.0mg/kg を水に溶解し,自由飲水させた.DOX は 5.0mg/kgを週に 1 回,合計 20.0mg/kg を腹腔内注射で投与した.DOX の最終投与から 5 日後にトレッドミルを用いた運動耐容能評価,経胸壁心エコーによる心機能評価を行った.結果及び考察1. BAIBA による細胞保護効果DOX 処 置 群 で は, コ ン ト ロ ー ル と 比 較 し て 細 胞 死 が 有 意 に 増 加 し た. 一 方 で, 同 条 件 下 でBAIBA を 併 用 処 置 す る と,LDH の 放 出 量 が 低 下 し,BAIBA が DOX に よ る 細 胞 障 害 を 改 善 することが示唆された (Fig.1). Seahorse アッセイでは,DOX 処置群では酸素消費速度 (Oxygen Consumption Rate : OCR) が低下し,ミトコンドリアでの ATP 合成能の低下を認めた.BAIBA 併用橋本 暁佳 札幌医科大学病院管理学・教授沼澤 瞭― 320 ―運動により産生されるβ- アミノイソ酪酸が心不全における脂肪酸代謝の改善に寄与する分子機構の解明

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