令和6年度_2024_助成研究報告集
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はじめに筋萎縮性側索硬化症(ALS)をはじめとする神経変性疾患の創薬標的として,発症要因の一つとされるストレス顆粒の凝集に関与する T-cell intracellular antigen-1(TIA-1)に注目が集まっている 1).しかし,創薬標的として期待される TIA-1 アミロイド線維の構造は未解明である.そこで本研究では,複数の神経変性疾患と関連する TIA-1 の疾患関連変異体(P362L および A381T)2)のアミロイド線維について,クライオ電子顕微鏡法(以下,Cryo-EM)を用いて立体構造を解析した.実験方法Cryo-EM は,急速冷凍によって非晶質の氷中に埋め込まれたタンパク質の電子顕微鏡像に基づいて立体構造を解析する手法である.本研究では,構造解析に適した高品質な電子顕微鏡像を得るために試料作製条件を最適化し,以下の手順を確立した.① アミロイド線維化と試料調整150 mM NaCl,1 mM DTT,50 mM MES(pH 6.5)buffer に 5%(v/v)のアミロイド線維 seed を加え,室温で 4 週間静置することでアミロイド線維化させた.② Cryo-EM 撮影用グリッド作成作製したアミロイド線維溶液を電子顕微鏡用グリッドに 2µL 滴下し,4℃,湿度 95% にて 20 秒間濾紙で溶媒を吸い取り,液体エタンに 7 秒間暴露し凍結した.以上の条件で作製した試料を,クライオ電子顕微鏡 CRYO-ARM 300 で撮影した.結果及び考察本研究では,原子モデルの構築が可能となる分解能 3Åを目標に構造解析を行った.はじめに,上記の実験方法によって高解像度の写真を P362L 変異体で 5,976 枚,A381T 変異体で 3,351 枚取得することに成功した(図 1A).得られた写真からアミロイド線維が写った領域を構造解析用の粒子像(particles)として抽出するため,解析ソフト cryoSPARC を用いた自動粒子抽出(Autopicking)を行い,それぞれ 1,803,944,1,022,657 粒子を取得した.ただし,その中には氷や不純物の像が含まれていた.これらは構造解析のノイズとなるため,二次元クラス分類(2D classification)を行い,アミロイド小林 凌河杤尾 豪人  京都大学大学院理学研究科生物科学専攻 生物物理学教室構造生理学分科・教授― 315 ―神経変性疾患の病原アミロイド線維構造解明と線維化阻害薬シーズ開発

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