令和6年度_2024_助成研究報告集
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はじめにヒト生体の腎臓にある糸球体は,血液濾過を担う組織であり,血液中から余分な水分や老廃物を除去し原尿を生成する 1).この機能によって生体の恒常性が保たれるため,人体において不可欠な組織となっている.一方でこの糸球体は一部の薬によって機能が障害され,恒久的な機能低下や機能不全を招くことが知られている.そのため,新薬の創出においては,あらかじめ動物実験などを通して新しく作られた薬が腎糸球体に障害を与えないことを確認する必要があるが,実験動物とヒトとの間には種差があり,正確に新規薬物候補の毒性を評価することは難しい.そこで本研究では,ヒト細胞を用いて糸球体構造を再現するデバイスを作製し,そのデバイス上で機能性評価実験をおこなうことを目標とした.実験方法実験においては,まず CAD を用いてデバイス設計をおこない,微細加工技術によって PDMS 製のマイクロ流路をもつデバイスを作製した.次に,デバイス中のマイクロ流路に細胞や細胞外マトリクスを模倣した物質,培地などを導入することでデバイス中で細胞培養を可能とした.本実験においては,糸球体上皮細胞としてヒト iPS 細胞由来のポドサイト 2,3),血管内皮細胞としてヒト臍帯静脈内皮細胞を用いた.これらの細胞を,実際の糸球体の濾過構造の様に層状となるようにデバイス内に配置し,糸球体濾過障壁の構造を模倣した.数日間の培養によってデバイスを安定させたのち,濾過機能の評価実験をおこなった.ヒト生体においては,分子量の大きな物質は濾過障壁を透過できない一方,比較的分子量の小さなものは透過できることが知られている.そこで本研究では,分子量の大きな血中タンパク質であるアルブミンと,濾過機能測定に使われるイヌリンを指標物質として用いた.これらの指標物質には蛍光タンパク質が付与されているため,デバイス中の透過の様子を蛍光顕微鏡下で観察した.さらに,実際の糸球体薬物障害をモデル化可能か検証するため,すでに糸球体への毒性が知られているピューロマイシンアミノヌクレオシドとドキソルビシンを用いた.これらの薬物をデバイス中に投与し,数日間培養後,同様にアルブミンとイヌリンを用いて濾過機能を評価した.結果及び考察作製したデバイスの機能評価実験において,通常の毒性薬物を加えていないデバイスにおいては,田渕 史横川 隆司  京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻 マイクロバイオシステム研究室・教授― 313 ―創薬応用へ向けたヒト糸球体の生体模倣デバイスの開発と評価

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