令和6年度_2024_助成研究報告集
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り,本研究では,CGRP が BASC 細胞膜上の CGRP 受容体刺激および細胞内タンパク質のβ- アレスチン活性化を引き起こすことにより,BASC の遊走亢進が生じていることが明らかになった.CGRPは,内因性の幹細胞性調節因子の 1 つとして働き,幹細胞ニッチの調節や幹細胞の自己複製と分化に影響を及ぼす可能性が示唆されている 12).近年,BASC と同様の組織幹細胞である造血幹細胞において,神経終末から分泌された CGRP に反応し幹細胞ニッチである骨髄から血管に遊走されることが報告されている 13).幹細胞ニッチは,物理的接触や拡散性因子を通して幹細胞の特性を制御する複雑な微小環境であり 14),BASC 近傍に存在が観察された PNEC が,Notch リガンドを発現しこの幹細胞ニッチを形成すると示唆されている 15).さらに,当研究室において,BASC において Notch が発現していることを明らかにしている (unpublished data).よって,BASC および PNEC の両者間で Notch 受容体 -Notch リガンド発現による幹細胞ニッチが形成されている可能性が考えられ,さらに,CGRP 刺激による BASC の遊走亢進は,この幹細胞ニッチからの離脱となっている可能性が示唆される.おわりに本研究より,BASC の遊走性制御において PNEC から分泌される CGRP が関与することが明らかとなり,CGRP 刺激が BASC の肺組織修復の起点となっている可能性が示唆された.本研究を通して,BASC の幹細胞性制御機構について報告することで,BASC による肺組織修復を活用したさまざまな肺疾患の根治治療開発の実現に向けて重要な進展をもたらすと期待される.謝 辞この度は,公益財団法人 中外創薬科学財団の奨学金受給者に選出していただいたこと心より感謝申し上げます.寛大なご支援のおかげで,研究に専念することができました.ご支援いただいた貴財団に,医療社会貢献を通して恩返しできればと思っています.改めて,奨学金を給付してくださった貴財団に重ねて御礼申し上げます.引用文献 1. 一般社団法人日本アレルギー学会 : 2 疫学 , 喘息予防・管理ガイドライン 2024, 『喘息予防・管理ガイドリン 2024』作成委員会 , 協和企画 , 東京 , 28-41, 2024.2. 10.1164/rccm.201810-1944CI, 2019. 3. 10.1002/alr.22464, 2020. 4. 10.1016/j.alit.2020.08.001, 2020. 5. 10.1053/j.gastro.2008.11.041, 2009. 6. 10.1186/s13287-017-0486-5, 2017. 7. 10.1016/j.cell.2005.03.032, 2005. 8. 10.1016/j.cell.2013.12.039, 2014. 9. 10.1371/journal.pone.0048451, 2012. 10. 10.1038/s41588-019-0346-6, 2019. 11. 10.1126/science.aad7969, 2016. 12. 10.1155/2022/4107433, 2022.13. 10.1038/d41586-020-03577-7, 2021. 14. 10.1002/path.2474, 2009. 15. 10.1242/dmm.046920, 2020. ― 310 ―

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