はじめに気管支喘息は,アレルゲンの反復吸入によって誘発される気道の慢性炎症性疾患である.現行の吸入ステロイド薬を中心とした治療法に抵抗性を示す,いわゆる難治性喘息が全体の 5-10% 存在し,喘息関連死数は下げ止まりとなっている 1-4).そのため,難治性喘息患者をいかに治療するかが課題であり新規治療法の確立が求められている.現在,さまざまな炎症性疾患に対して組織幹細胞を活用した新たな治療アプローチの研究が進展している 5,6).肺組織においては,気管支肺胞上皮幹細胞 (BASC) が,気道上皮細胞や肺胞上皮細胞に分化する能力を持つ肺の組織幹細胞であり 7-9),損傷した気道および肺胞の修復過程に寄与することが報告されている 10).しかし,BASC が肺組織修復の実行に至る刺激因子およびその受容・応答といったメカニズムは不明であり,臨床応用に繋げるためには生化学的事象に関して詳細な解明が必要である.一方,肺には外部刺激に対するセンサーとして肺神経内分泌細胞 (PNEC) が存在しさまざまな生理活性物質を分泌している 11).これまでに,BASC が PNEC 近接に存在していることを見出し (unpublished data),PNEC からの分泌物が BASC による組織修復の起点となる可能性を示唆した.よって,BASC による組織修復の起点を解明することを目的とし,本研究では,PNEC が分泌するカルシトニン遺伝子関連ペプチド (CGRP) に着目し,CGRP 刺激による BASC の動態変化について解析した.実験方法C57BL/6 雄マウス肺より CD34+Sca-1+ の BASC を採取した.qPCR および免疫組織染色を用いCGRP 受容体の発現を検証した.CGRP 刺激による BASC の動態変化について,増殖性を WST-8 Assay により測定し,遊走性を Boyden chamber およびμ-Slide による Migration Assay により測定した.さらに,CGRP 受容体のシグナル下流分子であるβ- アレスチンの関与について,BASC のCGRP 刺激培養により解析した.結果及び考察BASC は RAMP1 と CALCRL の二量体からなる CGRP 受容体を細胞膜上に発現していた.さらに,CGRP 刺激後,細胞増殖は認められなかったが,Boyden chamber およびμ-Slide により細胞移動が亢進することを見出し,その際,β- アレスチンの活性化とアクチンの重合が生じていていることを認めた.一方,CGRP 刺激による BASC の移動において特定の方向性は認められなかった.以上の結果よ高橋 知子 東北医科薬科大学薬学部病態生理学教室・教授池 瑛莉奈― 309 ―組織修復に向けた気管支肺胞上皮幹細胞の分化誘導機構の解析
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