令和6年度_2024_助成研究報告集
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Conrad 博士の特別講演時の様子― 306 ―開発のリード化合物として期待されている.これらの成果をもとに,Conrad 博士はフェロトーシス制御系の in vivo での役割と創薬可能性について議論し,神経変性疾患および癌に対する新たな治療戦略の展望を提示した.②シンポジウム講演(開催日時:2025 年 3 月 27 日夕方,開催場所:第2会場)シンポジウム名:レドックス超分子・フェロトーシス研究の最先端 ~薬学への新展開演題:Ferroptosis as a pharmacologically tractable form of cell death to prevent neurodegenerative disease参加者数:100 名程度講演内容:GPX4 は,脂質膜中の過酸化脂質を還元しフェロトーシスを防ぐセレン依存性酵素であり,その欠損はマウス胚の初期致死やヒトの SSMD(Sedaghatian-type spondylometaphyseal dysplasia)といった致死的疾患を引き起こす.Conrad 博士は,SSMD 患者由来の新規ミスセンス変異の構造・機能解析を通じて,GPX4 による神経保護機構およびフェロトーシス制御の分子基盤を明らかにした.本研究は,ヒトにおける神経変性の病態メカニズム解明に新たな視座を提供し,フェロトーシスを標的とした疾患治療の可能性を強く示すものである.3. 成果と今後の展望今回の招聘講演を通じて,フェロトーシスという新しい細胞死概念が,薬学領域,特に創薬研究や神経変性疾患・癌の治療法開発において極めて重要な位置づけを持つことが広く認識された.また,基礎から応用に至るトランスレーショナルな研究展開や,分子標的薬の開発に向けた新たな国際連携の萌芽も見られた.講演は 27 日のみであったが,翌日・翌々日にも学会に参加され,有機化学や医療薬学,情報科学など,様々な研究者が彼と新たな共同研究の可能性について議論を交わしていた.今後,フェロトーシス研究を軸とした研究ネットワークを通じて,若手研究者の国際交流による共同研究の深化と領域発展が期待される.4. 付記初日の講演だけにとどまらず,3 日間の会期を通して,年会参加者と活発な質疑応答とディスカッションが交わされた.特に若手研究者や大学院生にとっては,最先端の研究に触れる貴重な機会となった.Conrad 博士の招聘は,我が国におけるフェロトーシス研究の加速と,革新的な薬学研究の展開に大きく寄与したと確信している.

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