招聘される研究者 Marian Burr受 入 研 究 者(大会長)成果報告シンポジウム:S03-02講演タイトル:Epigenetic Mechanisms of Immune Evasion in Cancer貴財団からご支援いただいた Marian Burr 氏の講演は,会期1日目の 12 月 3 日(火)9 時からシンポジウム 3 にて現地で行われました.本シンポジウムは “Epigenetic regulation of antitumor immune response” と題し,エピジェネティック因子によるがん免疫応答の制御について討論を行いました.近年,難治がんに対する治療法として注目されるがん免疫療法において,エピジェネティック因子による腫瘍側,免疫細胞側の機能制御の重要性が解明されており,今後の免疫療法の基礎・臨床橋渡し研究双方における最重要テーマの1つであります.この背景から,本シンポジウムでは国内外の第一線の研究者を招聘して,免疫学に関する国内最大規模の学術集会である本学会で議論を深めることとしました.Marian Burr 博士はオーストラリア国立大学の准教授で,上記分野の研究でインパクトのある研究成果をここ数年で複数発表している新進気鋭の若手 PI です.特に免疫チェックポイント阻害剤 (immune checkpoint inhibitor: ICI) の治療効果に関連するエピゲノム因子の研究を進めています.PD-1/PD-L1 や CTLA-4 などの免疫チェックポイント分子に対する阻害抗体は,多くのがん種に対して有効性が確認されているものの,実際には持続的効果を示す症例は限られています.免疫チェックポイント分子はがん抗原を認識する体内の T 細胞を活性化させる治療であることから,一般的には変異の多いがん種に対して効果が高いですが,多数の遺伝子変異を有するがん種であっても,ICI 抵抗性を示すことが知られています.Burr 博士は最近,固形がんと血液がんの両方において,MHC クラス I と MHC クラス II の抗原プロセシング経路の構成因子をコードする遺伝子が,様々なエピジェネティック因子を通じて発現抑制されていることを明らかにしました.特に polycomb repressive complex 2 (PRC2) によるヒストンH3K27 メチル化におり,MHC クラス I の抗原提示機能が抑制されるメカニズムなどが示されました (Burr et al. Cancer Cell 2019).PRC2 複合体を阻害することでがん細胞からの抗原提示能が回復し,抗腫瘍免疫応答が増強したことから,ICI 耐性を克服する新しい治療戦略の開発につながり得る知見が示されました.Australian National University国立研究開発法人理化学研究所 生命医科学研究センター粘膜システム研究チーム・副センター長 大野 博司― 303 ―第 53 回日本免疫学会学術集会(2024 年 12 月 3 日 ~ 12 月 5 日)
元のページ ../index.html#305