令和6年度_2024_助成研究報告集
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図2:ChweeTeckLim 博士の講演定量的顕微鏡法や計算モデリング,細胞や組織のマイクロエンジニアリングの発展にも焦点が当てられた.特に本シンポジウムの特徴として,力学作用や材料特性などを定量的に測定・操作する新技術開発についての発表が挙げられる.新しく開発されたバイオセンサーを用いた定量的顕微鏡観察アプローチにより,細胞骨格ポリマーの配向,細胞質の粘性,静水圧の測定が可能になった.このような新技術を活用することで,マウスの胚盤胞発生,ゼブラフィッシュの形態形成,ショウジョウバエの上皮細胞再配列,線虫の非対称細胞分裂になど,様々な形態形成を司る力作用の役割が発見された.更に,メカノバイオロジーの新分野として,嚢胞や管状器官の形成における静水圧と浸透圧ストレスの役割が提案され,流体の動きと細胞外の水圧が細胞や組織に機械的な力を発生させ,アクチン細胞骨格・細胞の再配列・細胞極性を調節する分子基盤が発表された.多くの研究におけるブレークスルーは,生物学者と物理学者・数学者との共同研究に依存しており,異分野連携研究の重要性が再認識されたと言える.公益財団法人 中外創薬科学財団の海外招聘補助金サポートによって来日した Chwee Teck Lim 博士(国立シンガポール大学・教授,Singapore iHealthtech・ディレクター)は,細胞同士が協調して進行する「細胞集団移動」を司るメカニクスを計測・操作する新技術の開発を発表し,細胞外環境のマイクロファブリケーション技術を活用して管状組織やドーム状組織における細胞の振る舞いを再構成した最新の研究成果を報告した(図2).Chwee Teck Lim 博士は,当該シンポジウムに参加した日本側の研究者との活発な議論を介して新たな共同研究を確立した.本会議で発表された形態形成を俯瞰することで,発生過程における力学作用の普遍的な役割ついての理解が飛躍的に深まった.また本会議は,学際的分野の世界的リーダーや若手研究者が一堂に会し,最新の進歩や将来の共同研究について議論する機会にもなった.異なる研究分野間の情報交換は,形態形成の理解のみならず,医学におけるメカノバイオロジーの応用の可能性に大きく貢献すると期待される.― 294 ―

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