て視床脊髄路のみに着目しており,他の上行性神経回路を含んでいないこと,2) それぞれの領域間の機能的な結合をカルシウムイメージングのみで検証しており,電気生理学などの他の手法を用いた多角的な検証が求められること,3) 感覚情報として温痛覚,触圧感,深部感覚,掻痒感など多様な種類があり,それぞれに特化した感覚神経,回路の形成などが,成熟度の関係で十分に確認されていないこと.特に,100-200 日程度の培養では,胎生期の神経細胞の状態しか誘導できず,成熟度を促進し,成体で認められるような多様な感覚神経の分化を進める手法の開発が期待される.また,このアセンブロイドのシステムは, 先天性無痛症のみならず,体性感覚が障害される様々な神経疾患の機序解明・治療法開発への応用が考えられる.また,鎮痛薬などの薬効評価に用いることも期待される.進化的な観点からは,ヒトの感覚神経回路が他の生物種とどれくらい異なるのかは十分に研究されておらず,このアセンブロイドが提供するヒト感覚神経回路プラットフォームを用いて種間差の研究を行えるだろう.また,神経回路全体の活動を同時にイメージングすることは生体内においては困難であり,この点においてもアセンブロイドの有用性がある.おわりに本研究では,試験管内で神経回路を再現できるアセンブロイド技術を発展させ,体性感覚を中枢神経系に伝える脊髄視床路の機能を再現することに成功した.このアセンブロイドは,4 種類のオルガノイドから構成される現時点で最も複雑なアセンブロイドシステムであるが,より多くの構成要素や複雑なトポロジーを持つアセンブロイドの開発が期待される.また,ヒト神経回路研究を行えるというユニークな特性を活用し,今後はアセンブロイドを用いた疾患機序研究,治療薬開発,ヒト特異的な回路機能の解明などの研究が発展していくだろう.謝 辞本研究を共に進めてきた研究室メンバーに深く感謝申し上げます.引用文献 1. DOI: 10.1038/nature22330, 2017.2. DOI: 10.1016/j.cell.2020.11.017, 2020.3. DOI: 10.1038/s41587-020-00763-w, 2020.4. DOI: 10.1016/j.neuron.2024.09.020, 2024.5. DOI: 10.1038/s41592-018-0255-0, 2019.6. DOI: 10.1101/2024.03.11.584539, 2024.7. DOI: 10.1038/s41586-023-05828-9, 2023.― 290 ―
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