れる.実験方法オルガノイド作成ヒト iPS 細胞をシングルセル化して,マイクロウェルプレートに播種し,均一な細胞塊を作成した.1 日後に,低接着ディッシュに細胞塊を移し,分化シグナルを調整する小分子を加えることで,大脳皮質 5),視床 3),背側脊髄 6),感覚神経 6) のそれぞれの特性を持つオルガノイドを作成した.詳細な小分子の添加条件はそれぞれの引用文献に記載.アセンブロイド作成上記で作成した脳部位特異的なオルガノイドを感覚神経 – 背側脊髄 – 視床 – 大脳皮質の順に直線状に並べ,低接着ディッシュ内で互いに近接させた状態で 3 日静置した.互いの結合を確認し,100-200 日の長期培養を行なった.カルシウムイメージングアセンブロイドにレンチウイルスを感染させ,神経細胞特異的シナプシンプロモーター下にカルシウムインジケーター GCaMP8s7) を発現させた.感染後 1 週間程度で発現を確認した.ガラス底面のディッシュにアセンブロイドを移し,共焦点顕微鏡でタイムラプスイメージングを施行した.結果及び考察大脳皮質,視床,背側脊髄,感覚神経それぞれの部位特異的オルガノイドの分化誘導を行い,免疫組織化学染色,RT-qPCR,シングルセル解析を用いて,適切な部位への誘導が行われたことを確認した.特に,シングルセル解析では,ヒト胎児トランスクリプトームデータと比較することで,実際の生体内での遺伝子発現と近似した状態を試験管内で作り出せることを示した.特に,感覚神経オルガノイドは,末梢感覚神経に特徴的な痛み刺激を受容する TRP 受容体や ATP 受容体を発現していた.これらの受容体のアゴニストであるカプサイシン,αβ -meATP の処理下でのカルシウムイメージングを行うと,感覚神経オルガノイドのみがこれらのアゴニストに反応した.以上から,それぞれの領域特異的オルガノイドが,対応する脳部位を模倣することが示された.この 4 領域のオルガノイドを,感覚神経 – 背側脊髄 – 視床 – 大脳皮質の順に直線状に結合させることで,アセンブロイドを作成した.αβ -meATP やケージドグルタミン酸による感覚神経オルガノイドサイドの局所的な活性化を行うと,他の 3 領域への神経活動の伝播が確認された.さらに,外部からの刺激なしの自発的神経活動を観察すると,4 領域すべてで互いに高い相関を示した.これらのデータから,各オルガノイド間で機能的な神経回路が形成されていることが示唆された.最後に,疼痛感覚の喪失を認める先天性無痛症の iPS 細胞を作成し,この 4 領域アセンブロイドを作成した.健常者アセンブロイドと比較して,疾患アセンブロイドでは自発的神経活動の相関性が低下していることが確認された.すなわち,先天性無痛症では各領域間を結ぶ神経回路の形成が障害されている可能性が示唆された.現状のアセンブロイドの問題点としては,下記のような点が挙げられる.1) 感覚情報の伝達とし― 289 ―
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