図6.高効率化Primeediting技術を用いた脳細胞への精神疾患変異の導入<まとめ>本研究においては,当初のプロジェクトにおいて行っていたマーモセット脳の空間的遺伝子発現解析を通して新たに発見した霊長類特異的視床抑制性神経細胞(Th-INs)の特異的エンハンサーを同定し,AAVベクターとともに神経回路・機能解析を行い,その重要性に関しての証明を行った.Th-INsは非常にユニークな存在であり,その霊長類特異的な機能を明らかにしたことで,高次脳機能とは何か?という問いに対する解答の一つを提示するものであると考えている.さらに,本研究を通じて得られた知見は,霊長類特異的神経回路の進化的意義や,精神神経疾患の病態解明にも新たな視点を提供する可能性がある.特に,Th-INsが視床と前頭前野を結ぶ回路の制御に関与することが示唆された点は,統合失調症やうつ病に見られる認知機能の障害との関連性を今後さらに掘り下げる必要がある.現在は,Prime editing技術によって構築された疾患モデルマーモセットを用いた治療介入実験を進めており,その成果は今後,霊長類における遺伝子治療の可能性を検討する上でも重要な足がかりとなると期待している.本研究は,動物モデルとしてのマーモセットの有用性,AAVベクターの応用可能性,そして霊長類に固有の神経回路の意義を明らかにする一歩となった.今後も引き続き,霊長類脳に特有の神経細胞とその回路の研究を深化させることで,人間の脳の複雑性と精神疾患の本質に迫っていきたいと考えている.おわりに本研究においては,当初のプロジェクトにおいて行っていたマーモセット脳の空間的遺伝子発現解析を通して新たに発見した霊長類特異的視床抑制性神経細胞(Th-INs)の特異的エンハンサーを同定し,AAVベクターとともに神経回路・機能解析を行い,その重要性に関しての証明を行った.Th-INsは非常にユニークな存在であり,その霊長類特異的な機能を明らかにしたことで,高次脳機能とは何か?という問いに対するひとつの解答の一つを提示するものであると考えている. さらに,本研究を通じて得られた知見は,霊長類特異的神経回路の進化的意義や,精神神経疾患の病態解明にも新たな視点を提供する可能性がある.特に,Th-INsが視床と前頭前野を結ぶ回路の制御に関与することが示唆された点は,統合失調症やうつ病に見られる認知機能の障害との関連性を今後さらに掘り下げる必要がある.― 286 ―
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