令和6年度_2024_助成研究報告集
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これらの細胞種の機能解析を進めるために,上述の RNA-seq 解析と同時に行った ATAC-seq 解析において選出された,Th-INs において特異的にオープンクロマチンとなっているゲノム領域のエンハンサーとしての機能の解析を行った.具体的には,近年動物モデルやヒト患者において効率的な遺伝子導入や遺伝子治療に用いられている Adeno-Associated Virus (AAV) ベクターを用いてエンハンサー候補配列 (10 種類以上 ) と蛍光タンパク質遺伝子および DNA バーコードをマーモセット視床に局所注入し,エンハンサー候補配列による遺伝子発現誘導性,またその特異性に関しての解析を行った.その結果,候補5番(E5)が 90%以上の特異性を持って Th-INs において下流の遺伝子発現を誘導できることが分かった(図3).なお,同様の細胞種がほぼ存在しないマウス脳においては,このエンハンサー配列によって遺伝子発現は誘導されず,霊長類への特異性も示された.さらに,局所注入法だけではなく,全脳感染型 AAV(Chen et al., unpublished)4) を用いた静脈注入を用いた遺伝子導入法に関しても実施し,現在解析中となっている.図3.AAV ベクターを用いた視床抑制性神経細胞特異的エンハンサーの同定図3のエンハンサー配列を用いて,これまでに狂犬病ウイルスベクターを用いた神経回路トレーシング解析を行った ( 図4).その結果,Th-INs は視床内の興奮性神経細胞や,さらには前頭前野・体性感覚野・聴覚野・淡蒼球内層からの神経投射を受けていることが分かった.よって,Th-INs は視床内での神経活動性を制御するために内部からのみ制御されているのではなく,高次脳機能や感覚・運動に関わる他領野からも神経支配を受けていることが分かった.さらに,このエンハンサーを用いた化学遺伝学的行動実験の解析を行っている(図5).この実験に関しては,霊長類特異的な Th-INs の作る神経回路が,高次的な視床の機能において大きく貢献していることを検証するために,マーモセットの Th-INs の神経活性を化学遺伝学的に操作できるような AAV ベクターを導入し,それらの個体をモチベーション (Progressive ratio task),短期記憶(Working memory task),および適応 (Set-shift) のそれぞれの能力を調べるための行動課題をタッチパッドで構築し,その課題の結果を解析し,現在までに Th-INs の操作によってマーモセットの行動が大きく変化することを確認しており,Th-INs の霊長類における大きな神経機能についての統計解析結果をまとめている.― 284 ―

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