明らかにできなかった,視床抑制性神経細胞の遺伝子発現・神経活動・行動制御機構に関しての解析を行い,またこれらの細胞種と精神神経疾患の関連性についても新たな知見を得ることを目的としている.実験方法本研究では,以下の手法を組み合わせて霊長類特異的視床抑制性神経細胞(Th-INs)の機能解析を行った.1. サンプルと動物モデルマウス(C57BL/6J)およびコモンマーモセット(Callithrix jacchus)を使用.マーモセットは成体オス 6 体,胎児脳サンプル 4 体を含む.動物実験は慶應義塾大学および MIT の倫理委員会の承認を得て行った.2. 遺伝子発現解析視床組織より単一細胞を分離し,10x Genomics プラットフォームを用いたシングルセル RNA-seqおよび ATAC-seq を実施.データは CellRanger および Seurat にて前処理・クラスタリングを行い,特異的細胞種の同定を行った.3. in situ ハイブリダイゼーション(RNA-FISH)視床内の細胞局在を確認するため,PCBP3, CHRM2, GAD1, GAD2 の 4 遺伝子を対象とした RNA-FISH を行い,蛍光顕微鏡下で観察した.4. エンハンサー配列スクリーニングATAC-seq により得られたオープンクロマチン領域から Th-INs 特異的エンハンサー候補を 10 種選定.各配列に蛍光レポーターおよび DNA バーコードを組み込んだ AAV ベクターをマーモセット視床に局所注入し,発現特異性を蛍光画像解析により評価した.5. 神経回路トレーシングTh-INs に特異的なエンハンサー(E5)を用いて狂犬病ウイルスベクターによる逆行性トレーシングを実施.入力元として大脳皮質,淡蒼球内層,視床内の興奮性細胞が同定された.6. 行動解析E5 エンハンサー下で DREADD(hM4Di)を導入し,マーモセットに対して化学遺伝学的抑制を実施.モチベーション(progressive ratio),短期記憶(working memory),認知柔軟性(set-shift)を評価するため,独自に設計したタッチパッド行動課題を用いて行動変容を解析した.7. 疾患モデルと遺伝子編集統合失調症のハイリスク遺伝子変異(例:GRIN2A, CACNA1C)を Prime editing 技術によりマー― 282 ―
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