令和6年度_2024_助成研究報告集
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球あたりのヘモグロビン量 ) に影響を及ぼす遺伝的パスウェイについての解析結果について報告する.まず初めに LOF burden test で得られた MCH に関わる遺伝子の効果量を,Perturb-seq から得られた遺伝子の遺伝子発現に対する効果量と比較した.興味深い事に,MCH の遺伝的リスクは,HBA1 遺伝子の発現量に対する制御効果と非常に強く相関する事が分かった (P = 3 × 10-7,図 2). つまり,例えば HBA1 を正に制御する遺伝子は MCH と正に関連し,負に制御する遺伝子は MCH と負に関連するといった傾向が見られた.また,HBA1 遺伝子自体も MCH と最も強く関連する遺伝子の一つとして同定された.HBA1 タンパクはヘモグロビンの構成要素の一つであり,MCH の値に直接関わる事が生物学的にも予想される.これらの結果は,omnigenic model で提唱した遺伝子発現制御ネットワークと遺伝的リスクの関わりを実データで証明した初めての例と言える.さらに,Perturb-seq に内包された遺伝子発現制御ネットワークと LOF burden test で同定された遺伝子レベルの関連統計量を比較解析する事で疾患・形質に関わる “ コア・パスウェイ ” を同定する事が可能である事を示唆する.そこで我々はさらに HBA1 以外の MCH に関わるコア・パスウェイを同定するため,non-negative matrix factorization 法を用いて遺伝子発現マトリックスをパスウェイレベルに分解した.これにより,60 の細胞内パスウェイと,それを構成する遺伝子を同定し,さらに各パスウェイに対して遺伝子がもつ制御効果量を推定する事が可能となる.興味深いことに,MCH については細胞周期パスウェイとヘモグロビン生成パスウェイにおいて,パスウェイを構成する遺伝子及びパスウェイを制御する遺伝子が共に強く遺伝的関連に集積していた.さらにオートファジーパスウェイを制御する遺伝子も強い集積が見られた.これらは,MCH という形質を決定する上で遺伝的に重要なコア・パスウェイと呼ぶ事ができる.これらのコア・パスウェイを同定した事で,遺伝学的解析で同定された “ 形質関連遺伝子 ” がパスウェイ及びその制御ネットワークの中でどこに位置し,どのように形質と関わるかという地図を作成する事が出来る ( 図 3).この中で,例えば SUPT5H 遺伝子は形質に関わる全てのパスウェイを正または負に制御し,結果全てのパスウェイ制御を介して,SUPT5H 遺伝子の発現増加は MCH の上昇につながる事が分かる.これまで GWAS など大規模ゲノム解析では “ 疾患関連遺伝子 ” の候補を多数同定して来たが,それらがどの様に相互に関わりながら,形質に関わるかを同定する手段は確立されていなかった.今回の我々のアプローチを用いる事で,疾患関連遺伝子がどの様にパスウェイやその制御に関わり,さらに形質に関わっていくかを同定する事が可能である事を示した.図1.研究の概要 . ゲノムデータと Perturb-seq データを組み合わせる事で形質に関わる遺伝子制御ネットワークを同定する事を目標とした.― 279 ―

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