の程度を検討したところ,OPC 特異的エクソンの約半数のエクソン制御 (79/164, 48%) に関与していることが明らかとなった.また,同様に神経細胞特異的エクソンと OL 特異的エクソンとについて,Control および Qk-KD における変動をクラスタリング解析し,ヒートマップを用いて可視化すると,非常に興味深いことに,Qk-KD OPC ではエクソンの利用が,大脳皮質由来の神経細胞と近似したパターンになることが明らかになった.さらに HITS-CLIP 情報との統合解析を行い,変動エクソンについて,さらに詳細に制御ルールの解析を行うと,Qki は OL において,OL 特異的な選択的エクソンの利用を促進し,神経細胞特異的な選択的エクソンを抑制することがわかった.従って,Qki はOL 特異的な選択的エクソン制御を介して,OL 特異的 RNA プログラムの創出における主要な役割を果たしていることが明らかになった.Qki5 制御エクソンの一つとして,解糖系の律速酵素である PKM1/2 の選択的スプライシング制御とその結合部位を同定した.PKM では,エクソン 9 の選択により PKM1 型,エクソン 10 の選択により PKM2 型となる.Qki5 はエクソン 9 の上流 intron において ACUAAY を含む配列に結合し,エクソン 9 の選択を抑制することで,PKM2 型の発現を促進しており,乳酸代謝の制御をしていることが明らかとなった.よって,Qki5 は,脳内において選択的プライシング制御により,細胞種特異的な代謝機構を制御することがわかった.すなわち,Qki は選択的プライシング制御により,神経細胞と OL 間の異なる解糖系代謝機構を制御する重要な因子であることがわかった (Hayakawa-Yano et al, 改訂中 ) .現在は Qki5 の結合部位 ACUAAY を含む配列に相補的に結合するアンチセンス核酸 (ASO) を設計をし,導入する準備を進め,ASO による選択的エクソンの ON/OFF 制御の可能性について検討している.さらに,マウス遺伝学を用いた解析では,CNPase-cre マウスと Qk-flox マウスと掛け合わせて,OL 特異的な Qk ノックアウトマウスを作出し,生体 OL での Qki の機能について,解析を行う予定である.また,選択的スプライシング制御とは異なる RNA 階層として,mRNA からの翻訳制御機構においても RBP が主要な働きをしており,OL の成熟と脂質代謝に関わる RBP を報告している.特定の細胞種に発現する遺伝子を同定するバイオインフォマティックスクリーニングシステムを用いて,OL特異的 RBP として Secisbp2L(Sbp2L)を同定した.上記の初代培養 OPC やマウス神経系を用いた発現解析により,Sbp2L は OL の分化に伴って発現が上昇し,OPC における KD により,OL の分化を正に制御する因子であることが明らかになった.Sbp2L は転写因子である Tcf7l2 の mRNA 3’UTRの SECIS エレメントに結合し,Tcf7l2 タンパク質を正に制御することが明らかになっている.OL 特異的に発現する Sbp2L が,コレステロール代謝および OL 分化に必須の転写因子 Tcf7L2 を蛋白質レベルで調節することにより,OL 成熟を制御していることが明らかになった 5).このように,OL の分化,成熟には,RBP による多層性の厳密な RNA 制御機構が構築されていることがわかった.おわりに近年では,OL が髄鞘形成を超えた,多彩な細胞機能を有することが明らかになりつつあり,大変興味深い.例えば,髄鞘を介して軸索のミトコンドリアに乳酸を輸送することで,局所的なエネルギー代謝の面で,神経細胞をサポートする機能を有すること,また OL が神経伝達物質の受容体を発現しており,神経活動依存的な髄鞘形成をすることで,運動学習や海馬の記憶形成において積極的な役割を果たすことが示唆されている.一方で,ヒトにおいては,加齢に伴い髄鞘形成が低下することが― 235 ―
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