学的手法を用いた研究により,外在性因子および内在性因子が協調し,厳密に制御されていることが明らかになっている.例えば,発生期の脊髄では,床板や脊索から分泌されるソニック・ヘッジホッグ(SHH)等の濃度勾配により発現する転写因子 Olig2 によって規定される pMN ドメインが誘導され,運動ニューロンが産生された後に,オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)が産み出される.さらに成長因子,サイトカイン,ケモカインなどの分泌因子とその下流のエフェクターが働き,生体内で OPC の増殖,移動,OL の分化,髄鞘形成に寄与している.我々はこれまで,神経系の発生および疾患において,RNA 結合タンパク質(RBP)による RNA制御の観点から分子制御機構の解析を行ってきた.例えば,神経細胞特異的に発現する RBP であるNova2 タンパク質は,選択的スプライシング制御により,発生期の大脳新皮質における神経細胞の放射状細胞移動を制御していることを明らかにしている 1).また,Quaking5(Qki5)タンパク質は,神経幹細胞および脊髄運動ニューロンに発現し,選択的スプライシングを介して,細胞種特異的なトランスクリプトームを形成し,特定の細胞の維持と機能発現に寄与していることを明らかにしている 2, 3).このように RBP は,転写因子により転写された mRNA を,さらに転写後調節機構を介した,ファインチューニングにより制御することで,より高い特異性を規定し,RNA 多層性の制御機構により,柔軟な細胞機能の堅牢性維持に働くことが考えられている.ヒトにおいては,1,542 の遺伝子が RNA 結合タンパク質をコードしていることが報告されている 4).また,最近では,加齢に伴う疾患の遺伝因子および病態関連分子として,RBP が深く関与しており,疾患に至る病態分子機構においては非常に重要な役割を果たしていると考えられる.一方で,OL の機能障害はミエリン形成不全症,白質ジストロフィー,多発性硬化症,統合失調症など,多様な神経系疾患の原因となることが知られている.従って,OL の発生および病態発症の詳細な分子機構を正確に理解することは,新たな診断・治療戦略の開発に不可欠である.従って,我々は OL における新規の RBP の役割について検証し,OL の発生および成熟における分子制御機構を明らかにした.実験方法オリゴデンドロサイトにおける特定の RBP の機能を明らかにするために,マウス由来の初代培養OPC を用いて,OL 特異的に発現する RBP の siRNA を導入しノックダウンを行い,RNA-seq によりトランスクリプトーム解析を行なった.さらに mRNA の定量解析に加えて,選択的スプライシングの動態について OLego-Quantas を用いて解析し,変動 exon の同定を行った.また,RBP が直接結合する RNA 標的分子および RNA 部位の同定には,発生期マウス脳を用いた HITS-CLIP 解析の情報を用いて,上記のトランスクリプトーム解析との統合解析を行った 3).結果及び考察まず初めに,OL における Qki による選択的スプライシング制御機構について明らかにするため,培養 OPC において Qk に対する siRNA を導入しノックダウン (Qk-KD) を行い,OLego-Quantas 解析ツールを用いて,変動するエクソンの網羅的な同定を行った.その結果,2914 エクソンの変動が認められ,Qki による多くの選択的スプライシングの制御が明らかになった.また,OPC と大脳皮質由来の神経細胞の選択的エクソンについて比較検討し,164 個の OPC 特異的エクソンおよび神経細胞特異的エクソンの情報を取得した.そこで,この 164 個 OPC 特異的エクソンにおける Qki の寄与― 234 ―
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