令和6年度_2024_助成研究報告集
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2. ノトバイオートハエの作出と菌定着の検証研究室で飼育されていた野生型ショウジョウバエの腸内細菌叢を 16S rRNA 解析により網羅的に調査した結果,優占する菌種は Lactobacillus fructivorans(乳酸菌)および Acetobacter sp. A3(酢酸菌)であった.これらの菌を純培養し,無菌ハエにそれぞれ単独で摂食させることで,乳酸菌ノトバイオートおよび酢酸菌ノトバイオートを作成した.いずれの菌種も 2 世代目以降で安定した菌定着が確認され,CFU アッセイによりその菌数は通常飼育ハエと同等であることが示された.これにより,定量的にも質的にも再現性のあるノトバイオート系統が確立された.3. 飼育エサの滅菌方法と栄養補助因子の影響ガンマ線照射によるエサ滅菌では,一部の微量栄養素が失活することが知られている.本研究においても,滅菌エサに含まれる微量栄養素の欠乏が,無菌ハエの成長不全や寿命短縮の原因であることが示された.オートクレーブ滅菌に切り替えたことで,微量栄養素が保持され,無菌状態においても幼虫期から成虫までの発育が正常に進行することが確認された.ガンマ線滅菌エサを用いた際の発育遅延は,腸内細菌そのものの欠如による影響というよりも,殺菌処理によって失われた栄養素の不足によるものと考えられる.すなわち,腸内細菌の役割を評価するためには,栄養的条件が十分に整備された環境下での無菌ハエの使用が不可欠であることが本研究から明らかになった.図 1.ビニルアイソレーターを用いた無菌ショウジョウバエの維持4. 腸内細菌がメスの寿命に与える影響無菌状態および各ノトバイオート系統における寿命解析を行った結果,無菌状態のメスのショウジョウバエにおいて寿命が有意に延伸するという現象が確認された.加えて,乳酸菌ノトバイオートのメスハエにおいては,無菌ハエのメスより寿命が短く,酢酸菌ノトバイオートでは無菌と同程度の寿命であった.すなわち,乳酸菌がショウジョウバエの寿命を短くする働きを示していることが示唆された.寿命延伸の背景には,腸内細菌依存的な腸管恒常性の破綻や慢性炎症,生殖機能や代謝経路(特にインスリンシグナル経路)との関与が考えられるが,これらの仮説については今後詳細な検証が必要である.本研究の結果は,腸内細菌がメス特異的に寿命制御に関与していることを示唆する重要な知見であり,腸内細菌と性差の関係を探る今後の研究の起点となる.― 230 ―

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