令和6年度_2024_助成研究報告集
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通常飼育下のショウジョウバエから回収した胚(embryo)を回収.胚を塩素系殺菌剤であるエクスポアで処理する.エクスポア消毒済みのステリルロックを介して胚をアイソレーター内に搬入.滅菌超純水で洗浄後,2.5% 次亜塩素酸ナトリウム溶液で 3 分間殺菌.再度滅菌超純水で洗浄後,無菌エサの入った培地瓶に移して無菌飼育を開始.この方法により得られる,数世代後の無菌ショウジョウバエは,従来の次亜塩素酸処理法や抗生物質処理法に比べて微生物混入リスクが極めて低く,かつ発育遅延などのダメージも回避されることが分かった.4. 無菌性の評価無菌性の検証は,無菌マウス検査と同様の標準培養法に準拠して行った.各世代の成虫個体および使用後のエサの一部を,以下の培地に接種し,アイソレーター内で培養した:真菌用培地:Potato Dextrose Broth(PD),好気性細菌用培地:Brain Heart Infusion Broth(BHI),嫌気性細菌用培地:Cooked Meat Medium(CM),Thioglycollate Medium(TG),5 世代にわたって連続飼育した後も,すべての培地で微生物の発育は観察されなかった.5. ノトバイオートハエの作出研究室で飼育している野生型ショウジョウバエの腸内細菌叢をメタ 16S 解析により解析したところ,代表的な常在菌は Fructilactobacillus fructivorans および Acetobacter sp. A3 であることが判明した.これらの菌株をアイソレーター内で純培養し,それぞれ無菌ハエに摂食させることでノトバイオート系統を作出した.菌定着は CFU アッセイにより確認し,複数世代にわたって安定して単独菌種が維持されていることを確認した.6. 寿命の測定上記の無菌ハエ飼育手法により,約 3 日おきにエサを交換しながら,全数が死ぬまで毎日生存数をカウントした.結果及び考察本研究では,無菌状態のショウジョウバエを長期間安定的に維持するための実験系を確立し,その基盤の上で腸内細菌が宿主の寿命に与える影響を検証することを目的とした.1. 真に無菌なショウジョウバエの作出ビニルアイソレーターを用い,胚の次亜塩素酸処理およびオートクレーブ滅菌エサによる飼育を組み合わせることで,微生物の混入が完全に排除された真に無菌なショウジョウバエの作成に成功した.無菌性は複数の培地による培養法で 5 世代以上にわたって確認され,菌の定着や環境からの再汚染は観察されなかった.この手法は,微生物の混入において従来の次亜塩素酸単独処理法や抗生物質処理法と比較して明らかに優れており,従来法では避けられなかった微量の細菌残存および発育遅延の問題を解消できた(図 1).特に,従来法では抗生物質処理によって腸内細菌を除去したとみなされたハエであっても,真菌や薬剤耐性菌が除去しきれていないことがある.その点,本研究で確立した系では,完全な滅菌条件下で飼育された胚由来のハエ個体を複数世代にわたって維持できており,ショウジョウバエにおける本来の「無菌」状態を初めて厳密に定義・実現したといえる.― 229 ―

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