令和6年度_2024_助成研究報告集
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【研究項目②】老化による睡眠異常に関与しているモノアミン系ニューロン下流脳領域と受容体サブタイプの同定研究項目①にて同定したモノアミン受容体を発現している細胞集団の電気生理学的特性を,脳スライスを用いたパッチクランプ法にて明らかにする(図2中の研究項目②参照).同定した下流脳領域に投射しているモノアミン系神経終末を光遺伝学的・薬理学的に操作した際に,同定したモノアミン受容体を発現している細胞集団や,モノアミン受容体を発現していない細胞集団がどのような挙動を示すかを調べる.さらに,同定した細胞集団の遺伝的特性を調べるために,10X Chromium を用いてサンプルを回収しシングル核解析を行う.若齢マウスと比較することで,老化により変化した遺伝子群をスクリーニングし,神経活動に影響を及ぼす可能性がある遺伝子の同定を試みる.【研究項目③】人工的操作における睡眠異常や睡眠構造の若返りの検討光遺伝学的手法・薬理学的手法にて,研究項目①にて同定された下流脳領域におけるモノアミン濃度の挙動を模倣し,睡眠状態や覚醒状態が誘導される条件を見出す(図2中の研究項目③参照).若齢マウスを用いて,モノアミン系ニューロンの人為的操作によって,老化による睡眠異常が引き起こされるか検討する.また,研究項目①にて同定した下流脳領域の細胞集団には,複数の同定したモノアミン受容体サブタイプが発現している.そのため,各モノアミン受容体特異的 Cre ドライバーマウスを用いて,光遺伝学的手法・薬理学的手法にて各受容体を介した下流経路を特異的に操作し,老化による睡眠異常の有無を調べることで,受容体サブタイプの同定を試みる.若齢マウスによる老化による睡眠異常の誘発や,老齢マウスにおける睡眠構築の若返りを検討する.結果及び考察老齢 C57BL/6J マウスは,若齢 C57BL/6J マウスに比べて睡眠構造に変化があり 8),SSRI や SNRIなどモノアミン系を標的にした治療薬は,老化による睡眠障害を改善させることから,老齢マウスを用いて,若齢マウスと異なる挙動を示すモノアミンや下流脳領域の同定を試みた.まず始めに,睡眠・覚醒状態の制御に関与している4つの脳領域に着目し,いくつかのモノアミンの細胞外濃度を,各週齢(3ヶ月齢,6ヶ月齢,12ヶ月齢,20ヶ月齢)において検討した.実験当初は,24ヶ月齢マウスを用いて本研究提案を遂行しようと試みたが,多くのマウスが手術後に衰弱死してしまった.そのため,20ヶ月齢マウスを用いて実験を行うことに変更したところ,手術後の生存率が上昇した.これらのマウスを用いて,ファイバーフォトメトリー法におけるモノアミン濃度測定を行い,睡眠時におけるモノアミンの挙動を網羅的に調べた.その結果,特定の脳領域において,モノアミン A の挙動が変化していることを見出した.現在,3ヶ月齢,6ヶ月齢,12ヶ月齢のマウスを用いて,様々な脳領域の加齢に伴うモノアミン A 濃度の経時変化を調べている.マウスの睡眠構造に変化が観察される週齢と,モノアミン A 濃度が変化する時期が一致するかどうかを検討する.さらに,光遺伝学的手法・薬理学的手法にて各受容体を介した下流経路を特異的に操作し,老化による睡眠異常の有無を調べ,受容体サブタイプの同定を試みるために,モノアミン A 受容体特異的 Cre ドライバーマウスの準備を進めている.本研究提案を通して,睡眠・覚醒状態状態の制御に関与している特定の脳領域において,モノアミン A の挙動が老齢マウスと若齢マウスで異なっている可能性を示唆するデータが得られた.このこ― 223 ―

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