令和6年度_2024_助成研究報告集
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図 2.本研究提案の概要― 222 ―ヒトや他の哺乳類の脳におけるモノアミン酸化酵素の活性は,加齢に伴い増大するため,老化した脳におけるモノアミン濃度の低下に関与している可能性が示唆される 2).加齢に伴うモノアミン系神経細胞数の減少は,モノアミン神経伝達物質を産生する神経細胞群の機能低下につながると考えられる.さらに,脳内のモノアミンの不均衡は,脳内微小炎症を引き起こし,認知症や精神疾患の発症リスクを高める可能性が示唆される.これらのことから,睡眠・覚醒制御に関与しているモノアミン系神経細胞群の活動が老化に伴い変化している可能性がある.そこで,本研究提案では,睡眠・覚醒制御機構に関与している神経細胞集団やそれらが構成する神経回路が,老化によりどのように変化し,その神経活動や遺伝子発現が変化するのか,そしてどのような変化が老化に伴う睡眠変容を引き起こしているのかを分子神経科学的に明らかにする.さらに,老化による睡眠変容が及ぼす全身の慢性炎症の理解に繋げ,これらの知見を利用した治療的介入による睡眠の改善がもたらす健康寿命伸延の提案を目指す(図2).実験方法【研究項目①】睡眠・覚醒状態における各脳領域のモノアミンレベルの経時変化の測定非拘束下のマウスで脳波・筋電図を測定しながら,ファイバーフォトメトリー法を用いて各脳領域のモノアミン濃度を測定し,睡眠時におけるモノアミンの挙動を明らかにする(図2中の研究項目①参照).睡眠と覚醒の制御に重要である視床下部・脳幹領域のいくつかのモノアミン系神経細胞群は,加齢による影響を受ける.モノアミン系ニューロンは,青斑核・ノルアドレナリン作動性(LC-NE),縫線核・セロトニン作動性(DR-5HT),結節乳頭核・ヒスタミン作動性(TMN-HA)などがあり,大脳皮質や前脳基底部,視床下部,脳幹に分布し,覚醒の促進に関与していると考えられている 3).ヒトの死後脳において,LC-NE ニューロン 4) や VTA-DA ニューロン 5) は,加齢の影響により細胞数の減少が確認されている.一方,DR-5HT ニューロン 6) や TMN-HA ニューロン 7) は,加齢による影響がほとんど受けないことが報告されている.これらのことから,睡眠覚醒制御に関与している全てのモノアミン系神経細胞群が,老化の影響を受けるわけではなく特異性があることが示唆される.しかし,このことが逆にモノアミン系の不均衡を生む可能性もある.そこで本研究項目では,睡眠・覚醒制御に関与している脳領域における各モノアミン濃度を測定し,加齢に伴うモノアミン濃度の経時変化を各脳領域にて明らかにする.

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