あり,老化による失調は,さらに加齢性変化に伴う慢性疾患の増悪につながると考えられる.しかしながら,加齢に伴う睡眠変容のメカニズムはほとんど明らかになっていない.睡眠・覚醒状態は,脳幹・視床下部のモノアミン系ニューロンの活動に強く影響を受ける.ノルアドレナリンやセロトンニンを産生するモノアミン系神経細胞は,大脳皮質,前脳基底部,視床下部,視床などの領域を広く支配し,覚醒状態を維持している.モノアミン系神経細胞やその受容体を欠損させたマウスでは,睡眠構造に変化が生じる.ヒトの死後脳にて,脳幹・視床下部のモノアミン系ニューロンには,加齢の影響により細胞数の減少する神経細胞群と,ほとんど変化しない神経細胞群があることが知られている.しかしながら,加齢の影響を受けるモノアミン系神経細胞群が,老化による睡眠異常の発症とどのような関係があるかは不明である.研究提案者は,ファイバーフォトメトリー法とドーパミンの蛍光センサーを用いて,若齢マウスにおける扁桃体内のドーパミンレベルの経時変化を観察した結果,扁桃体基底外側部ドーパミン濃度がノンレム睡眠中に一過的に上昇し,直後にレム睡眠が開始されることを見出した 1)(図1).また扁桃体基底外側部ノルアドレナリン濃度やセロトニン濃度は,レム睡眠が開始される直前のノンレム睡眠中に減少し始めることも確認した.このことから,同じ脳領域でもモノアミンの種類によって,睡眠・覚醒状態に応じた挙動は異なり,各脳領域におけるモノアミンのバランスと経時的変化により睡眠・覚醒状態を制御していることが示唆される.図 1.モノアミン類による睡眠・覚醒状態に応じた挙動変化― 221 ―同じ脳領域でもモノアミンの種類によって,睡眠・覚醒状態に応じた挙動は異なり,各脳領域におけるモノアミンの均衡が保たれることで,睡眠・覚醒状態を制御していることが示唆される.
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