― 218 ―酵素,脱リン酸化酵素により細胞内で速やかな相互変換を受けているため、細菌型 PLC 様タンパク質がどのホスホイノシタイドを直接の基質として代謝しているかは特定できない。そこで、組換え細菌型 PLC 様タンパク質と特定のホスホイノシタイドを含むリポソームを試験管内で反応させ、代謝産物であるジアシルグリセロールの量を比較することで直接的な基質の特定を試みた。今回は、PIP2を代謝するコントロールとして、PLCd1 を、PI を代謝するコントロールとして細菌の分泌性 PLC タンパク質それぞれ組換えタンパク質として合成し、ポジティブコントロール及びネガティブコントロールとして用いた。その結果、驚くべきことに、細菌型 PLC 様タンパク質は PIP2 を代謝せず、PI を代謝することが示唆された。この結果により、当初、細胞膜外層の PIP2 を代謝する酵素の候補として細菌型 PLC 様タンパク質を考えていたが、この可能性が否定される結果となった。特定の細菌型 PLC 様タンパク質遺伝子欠損マウスの網膜及び肝臓の表現型細菌型 PLC 様タンパク質の生体内での機能を解明するためにも,遺伝子欠損マウスを作り,その生理機能の解明を行うことにした.遺伝子欠損マウスは,CRISPR-Cas9 法を用いて作製され,マウスはメンデルの遺伝に則って得られることが明らかになった.特定の細菌型 PLC 様タンパク質はマウスにおいて網膜や肝臓に高発現しているため,二つの臓器に着目して解析を行った.1.遺伝子欠損マウスでは網膜で酸化ストレス,細胞老化の特徴が観察されるはじめに,網膜構成細胞を免疫蛍光染色により調べたところ,遺伝子欠損マウスではアマクリン細胞の減少と双極細胞の軸索伸長異常が観察された.双極細胞が視細胞とシナプス結合をすることから,視細胞シナプスの分布を調べたところ,視細胞シナプスの分布が遺伝子欠損マウスでは偏った分布を示すことが判明した.網膜を構成する各層は外顆粒層,外網状層,内顆粒層,内網状層の 4 層に分けられる.これらの層の厚みを測定したところ,遺伝子欠損マウスでは外顆粒層が菲薄化していることが明らかになった.視細胞の減少や双極細胞の軸索分布の異常は老齢マウスにおいても観察される表現型である.そこで遺伝子欠損マウスの網膜で細胞老化が誘導されている可能性を検討したところ,b- ガラクトシダーゼ活性の増加及び酸化ストレスの亢進が観察された.2.遺伝子欠損マウスでは肝臓でミトコンドリアの機能低下,酸化ストレスを示す遺伝子欠損マウスの肝臓において,通常状態での組織学的な違いは見出されなかった.そこで,高脂肪食を摂食させ,コントロールマウスとの違いを観察したところ,遺伝子欠損マウスではトリアシルグリセロールの蓄積,肝臓組織の風船様腫大が観察された.続いて RNA-seq により高脂肪食負荷時の遺伝子欠損マウスにおける変動遺伝子群を網羅的に探索した.その結果,脂質合成関連遺伝子やそれらの制御遺伝子の増加や,ミトコンドリアの主要な機能である酸化的リン酸化に関与する遺伝子群の減少が認められた.加えて,酸化ストレス応答遺伝子の増加,酸化ストレス抵抗性遺伝子の減少も見られた.そこで,高脂肪食条件下,及び通常食条件下のマウスにおいて,ミトコンドリア関連遺伝子の発現や酸化ストレスタンパク質の発現を調べたところ,通常食条件下においてもこれらの異常は観察されることが判明した.また,肝臓における高脂肪食負荷が老化誘導条件であることから,肝臓における細胞老化の特徴を調べたところ,β - ガラクトシダーゼ活性の増加やサイクリン依存性キナーゼ阻害タンパク質,p21 発現上昇などの特徴を示すことがわかった.
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