令和6年度_2024_助成研究報告集
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229Th は世界中に数十 GBq しかなく,日本においては供給量やコストに難があると言われている.しがん治療への応用が期待されるα線放出核種のうち, (a) 様々な分子骨格へ共有結合を介して導入可能で,(b) 適度な半減期(7.2 時間)を有し,(c) 原料 209Bi の入手が容易である,などの理由からアスタチン -211(211At) の利用が有望視されている.国産のサイクロトロンから製造が可能で,原子炉を必要としない点はアスタチン -211 の利点である.比較対象として,アクチニウム 225Ac の原料となるかしながら,第17族元素である 211At を導入する既存の手法は,サイクロトロンから得られる 211Atアニオンを求核種として直接使用するのではなく,211At アニオンと酸化剤を混合し求電子的な 211At種(211At-Br など)を用いるものが主流となってきた.標識効率という点では求電子的な 211At 種でも問題はないものの,211At アニオンと酸化剤を混ぜて発生する化学種は揮発性が高く作業者の内部被ばくリスクが高いため,実用性の観点から改善の余地を残している.したがって,実用化に向けた合成手法の抜本的な変更が求められている.具体的には,211At アニオンをそのまま求核種として利用し,遷移金属触媒フリーの条件で短時間かつ高効率で,芳香環上へ導入する手法が理想的である.また,半減期の短い放射標識医薬品は,臨床応用の際にオンデマンド,オンサイトでの合成が必要であり,拠点病院内における院内調製が必要となる.すなわち,合成の専門家以外でも簡便に調製できる自動合成システムへの搭載も必須である.以上のように,211At 標識医薬品の実用化に向けては,合成化学的な問題がボトルネックとなっており,その解決が求められている.本研究では,211At アニオンを求核種として芳香環上へ導入する手法を最適化すると共に,固相合成へと展開することで,自動合成装置に組み込むことを可能とするべく検討をおこなった.実験方法第 17 族ハロゲンの放射標識に関して,「18F 標識化」については,既に多くの先行研究例があり,PET イメージングへの応用もなされている.しかしながら,がんの診断を行うための 18F 標識化及びPET イメージングの進捗と比較し,アスタチン -211(211At) 標識については,発展途上である.特に,研究の進捗に対する足枷となっているのが,様々な分子骨格に対して自由自在に 211At を導入する合成化学技術がいまだ極めて未熟である点である.そこで本研究では,211At アニオンを様々な医薬骨格に自由自在に導入できる合成手法の開発に取組み,臨床適用に向けた合成化学的な障壁を克服することを目指し,研究に着手した.同一原料から 18F 標識化と 211At 標識化ができれば,Theranosticsを実現するために必要な技術基盤として有用と考え,18F 標識化における有望な原料であるヨードニウムイリド 2) に着目した.液相法によるヨードニウムイリドを用いた 211At 標識化,固相担持型のヨードニウムイリド試薬の開発と固相法による 211At 標識化,さらには,自動合成装置への組み込みについて,検討することとした.結果及び考察<液相法による 211At 標識>超原子価ヨウ素の1種であるヨードニウムイリドを標識前駆体として用いることで,At アニオン種を直接反応させることができ,効率的に 211At 標識化を達成した(図 1).液相法に基づく本手法では,ヨードニウムイリドと 211At アニオンを還元的・塩基性条件で反応させることにより,様々な官能基― 20 ―

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