令和6年度_2024_助成研究報告集
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3) に加えて,細菌が持つ分泌性 PLC に着目した研究 4) にも取り組んできた.研究の過程において申細胞膜の主要構成成分であるリン脂質は細胞膜脂質二重層の内層と外層に非対称に分布しており,リン脂質の一種であるホスファチジルイノシトール 4,5- 二リン酸 (PIP2) は細胞膜の内層にのみ存在すると考えられていた.また,この PIP2 を基質とする脂質代謝酵素ホスホリパーゼ C (PLC) は,細胞内において細胞膜脂質二重層の内層に存在する PIP2 を代謝し,二次メッセンジャーの産生を介して多様な細胞機能を制御する酵素である 1).申請者らはこれまでに,哺乳動物の PLC の生理機能解明 2, 請者らは,PIP2 が細胞膜脂質二重層の外層にも存在することや 5),細胞膜外層の PIP2 を代謝する酵素の候補として,細胞外に分泌される型破りな PLC の存在を明らかにしてきた.この,細胞外に分泌される PLC は細菌の分泌性 PLC と同様の構造をもち,細菌の分泌性 PLC が持つ酵素活性を担う2 ヶ所のヒスチジンが保存されていることが確認できている.我々はその予想酵素活性部位変異体では,細胞外へ分泌されないことも明らかにした.そこで我々はこの分泌される型破りな PLC,” 細菌型 PLC 様タンパク質 ” の機能解明を目指した研究を行うことにした.実験方法本研究では細菌型 PLC 様タンパク質の機能を明らかにするために,細胞外へどのようにして分泌されるのか,その経路の解明や,基質の探索と同定を試みた.また,一つの細菌型 PLC 様タンパク質の遺伝子欠損マウスの解析により,生理機能の解明に取り組んだ.細菌型 PLC 様タンパク質の細胞外分泌機構の解明タグを付加した細菌型 PLC 様タンパク質を細胞に発現させ,典型的な分泌経路である,小胞体,ゴルジ体を介した分泌経路を阻害剤,Brefeldin A 処理により分泌が抑制されるのかを調べた.続いて,非典型的な経路による分泌経路についても同様に解析を行った.また,タグを付加した細菌型 PLC様タンパク質を細胞に発現させ,そのタグと各種細胞内小胞やオルガネラマーカーとの共染色により,細菌型 PLC 様タンパク質の細胞内局在を探索した.この結果をもとに,細菌型 PLC 様タンパク質が細胞内でどのような働きを持っているのかを考察した.細菌型 PLC 様タンパク質の基質の探索細菌型 PLC 様タンパク質及びその酵素活性部位変異体を過剰発現させ,ホスホイノシタイド包括測定 (PRMC-MS 法 ) により 6),細菌型 PLC 様タンパク質の過剰発現がホスホイノシタイドの量に与える変化について解析した.次に,組換え細菌型 PLC 様タンパク質を合成し,特定のホスホイノシタイドを含むリポソームと反応させることで,in vitro での PLC 活性の測定を行った.今回,組換え細菌型 PLC 様タンパク質の合成にはコムギ胚芽由来無細胞系を用いた.PLC 活性の測定においては,PLC によるホスホイノシタイド代謝によって生じる産物であるジアシルグリセロールの量を定量し,試験管内において細菌型 PLC 様タンパク質のホスホイノシタイドに対する特異性を評価した.細菌型 PLC 様タンパク質遺伝子欠損マウスの生理機能解明CRISPR-Cas9 法により細菌型 PLC 様タンパク質遺伝子欠損マウスを得た.細菌型 PLC 様タンパク質はマウスにおいて網膜や肝臓に高発現していることが報告されていることから,それらの臓器に― 216 ―

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