した.その後の実験では,特に細胞死経路の抑制が顕著で,明確なドライバー変異が不明なことが多い扁平上皮肺がん (LUSC) に着目して実験を行った.癌・生殖細胞ネットワークを司る癌・精巣マスター転写因子を同定するため,103 個のがん細胞と生殖細胞のみに発現する転写因子を標的としたカスタム CRISPR スクリーニングライブラリーを作成し,CRISPR スクリーニングを施行,がんの増殖を制御する標的となりうる癌・精巣マスター転写因子の候補としてトポイソメラーゼ II α (TOP2A)を同定した(図2).図 2.カスタム CRISPR スクリーニングによる癌・枯巣マスター転写因子の同定TOP2A はエトポシドやドキソルビシンなどの有名な細胞障害性抗がん剤の標的分子であるが,既存の TOP2A 阻害薬を用いた RNA シークエンスデータを再解析することにより,これらの TOP2A阻害薬により細胞死経路が再活性化していることも発見した.このように TOP2A は古くから抗癌剤の標的として利用されており分子標的としての確実性は担保されているが,既存の TOP2A 阻害薬はすべて細胞障害性抗がん剤であるため副作用が大きい.そこで申請者はまず,細胞死経路の抑制とがんの増殖に重要な役割を果たす TOP2A の結合パートナーを同定すべく以下の 3 つのクライテリアに沿って,結合タンパク質の網羅的な同定を行った.①癌・精巣遺伝子の中で,② TOP2A と臨床検体において発現相関を認め,③質量分析計を用いた網羅的解析で TOP2A との結合が確認できているタンパク質として,A,B,C の 3 種類のタンパク質を同定した.そこで我々はさらにタンパク質ドッキングシミュレーションを施行し,これらのタンパク質の TOP2A に対する結合サイトを同定した(図3).その後これらのタンパク質―タンパク質結合 (PPI) を阻害する化合物の同定を目的に,中分子化合物ライブラリー 10,000 に対し in silico スクリーニングを施行し,タンパク質 A との各サイトに対して 100 個のヒット候補化合物を推測した(図4).― 209 ―
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