図 1.癌 • 生殖細胞ネットワークはじめにがん細胞と生殖細胞の遺伝子発現プロファイルは非常に似ていることが知られており,両者にのみ発現する遺伝子群の存在も古くから認識されている1).しかし両者を特徴づける遺伝子発現制御機構については依然不明な点が多い.また,がん細胞と生殖細胞はその一生を互いに模倣しているというrecapitulation theory に代表されるように,両者はその振る舞いにおいても多くの類似点を認める.さらに,一個体に存在する細胞数という観点においては共に希少細胞である両者が,自身の生存力を高めるために「どの様に」そして「どの様な」特性を獲得し,増殖・分化を繰り返しているのかという共通した分子メカニズムについてはほとんど知られていない.本研究では,癌と生殖細胞のみに存在する遺伝子群の集合体である癌・精巣遺伝子発現ネットワークを同定し,それを司る癌・精巣マスター転写因子を中心としたネットワークの作動メカニズムを解明する(図1).また,同定された癌・精巣ネットワークや癌・精巣マスター転写因子を標的とした新規治療薬の開発も行う.実験方法本研究では癌・精巣マスター転写因子の転写制御点を標的とし,がん細胞と生殖細胞の両者でのみ抑制されている細胞死経路を再活性化させることで,がん細胞の増殖を抑制する化合物を同定する.結果及び考察まず全 32 種類のがん種と対応する正常臓器における大規模な RNA シークエンスデータベース(The Cancer Genome Atlas Program; TCGA)を再解析し,9 種類のがん種において正常臓器と比較して生殖細胞系列のパスウェイが有意に亢進し,逆にそれらでは細胞死経路が抑制されていることを発見― 208 ―
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