はじめに乳がんについて乳がんは罹患率・死亡率ともに高いがんであり,ホルモン受容体であるエストロジェン受容体(ER)陽性乳がん,がん遺伝子 HER2 陽性乳がん,そして,ホルモン受容体や HER2 が陰性を示す Basal型乳がんの大きく 3 つのタイプに分類される.およそ 80%の乳がんは ER 陽性乳がんであり 1),治療の過程においてホルモン療法が適用される.しかしながら,およそ 20 − 30%の ER 陽性乳がん患者において治療抵抗性が認められ新たな治療法や治療薬の開発が期待されている 2).がんと細胞極性タンパク質について大部分のがんは上皮細胞を由来とする.正常な上皮細胞では頂端 - 基底の方向性である上皮細胞極性を有する.頂端 - 基底極性は細胞極性タンパク質と呼ばれるタンパク質群によって形成・維持される.がん組織において頂端 - 基底極性の破綻や細胞極性タンパク質の発現異常が高頻度で認められることから,細胞極性タンパク質の異常はがん細胞の増殖,転移,そして,薬剤耐性獲得に重要であると考えられているが詳細は不明な点が多い 3, 4).頂端 - 基底極性を制御する細胞極性タンパク質の 1 つに lethal giant larvae (lgl) がある.lgl はショウジョウバエの遺伝学的解析によりがん抑制遺伝子として同定され,哺乳類では LLGL1 と LLGL2の 2 つの遺伝子を有する.ショウジョウバエにおいて lgl はがん抑制遺伝子として機能することから,哺乳類上皮細胞においても LLGL1 と LLGL2 はがん抑制遺伝子として働くと考えられてきた 4).乳がん細胞における細胞極性タンパク質 LLGL2 の役割我々は乳がん細胞における LLGL1 および LLGL2 の役割を明らかにするため,詳細に解析したところ,ER 陽性乳がん細胞において LLGL2 は高発現しており,LLGL2 の高発現は ER 陽性乳がん細胞の増殖を亢進することを見出した.LLGL2 依存的な細胞増殖の分子機序を解析したところ,LLGL2はアミノ酸トランスポーターである SLC7A5 と相互作用し,SLC7A5 の細胞膜局在を促進することを見出した.また,LLGL2-SLC7A5 を介した細胞増殖の亢進にはアミノ酸ロイシンが鍵となっていることが示唆された(図 1).一方,ER 陽性乳がん細胞では治療の過程においてホルモン療法が適用される.ホルモン療法薬の一つであるタモキシフェンは非常に有効な薬であるが,一部の ER 陽性乳がん患者において薬剤抵抗性が認められる.そこで,タモキシフェン耐性乳がん細胞において SLC7A5 の役割を調べたところ,タモキシフェン耐性獲得乳がん細胞の増殖において SLC7A5 ならびに LLGL2 は必須であり,さらに,興味深いことに,SLC7A5 の機能亢進はホルモン療法薬であるタモキシフェンに対する耐性獲得を誘導することが示唆された(図 1)5).さらに,我々は SLC7A5 の細胞膜局在の分子機序を更に解析するため,細胞極性タンパク質SCRIB に着目して解析を行った.SCRIB は足場タンパク質として働くことから,SCRIB の網羅的な相互作用タンパク質の同定を行い,SCRIB の新規相互作用分子として SLC3A2 を同定した.SLC3A2― 193 ―of leucine-dependent cell proliferation in breast cancer cells and found that glutamine is required for leucine-dependent cell proliferation in some breast cancer cells.
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