令和6年度_2024_助成研究報告集
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図 3 構造と機能の相関ペリレン – 核酸複合体の細胞内取り込みメカニズムを明らかにするために,一連のエンドサイトーシス阻害剤を用いたメカニズム解析を行った.その結果,カベオラ依存性エンドサイトーシス阻害剤であるメチル - β - シクロデキストリンおよび,マクロピノサイトーシス阻害剤として広く知られる5-(N- エチル -N- イソプロピル ) アミロライド(EIPA)を用いた処理により,送達効率が顕著に低下した.一方で,Lipofectamine® 3000 は EIPA 存在下でも送達効率の低下が最小限にとどまった.これらの結果は,カチオン性ペリレン担体が従来のエンドサイトーシス経路に加えて,マクロピノサイトーシスを優先的に利用して細胞内に取り込まれていることを示唆している.このことは,従来のカチオン性脂質ベースのシステムとは対照的であり,ペリレン担体の取り込みに複数のエンドサイトーシス経路が関与していることを強く示唆するものである.これまでの検討で最良のパフォーマンスを示したジアリールペリレン化合物 SMZ052 の性能を評価するために,市販の送達試薬との比較を行った.GFP を発現するプラスミドを HEK293T 細胞に導入したところ,SMZ052 は Lipofectamine® 3000 と同等のトランスフェクション効率を示した.さらに,SMZ052 は GFP を標的とした siRNA を HeLa 細胞に効率的に送達し,Lipofectamine® RNAiMAXと同程度の強力な GFP ノックダウン効果を発揮した.哺乳類細胞系を超えて,SMZ052 およびその類縁体である SMZ090 の植物細胞への応用も実証した.SMZ052 とプラスミド DNA を単純に混合するだけで,電気穿孔法や PEG(ポリエチレングリコール)による導入を必要とせず,タバコ培養細胞 BY-2 の原形質体への遺伝子導入が可能であった.これは,植物細胞における非脂質系による遺伝子導入の稀有な例である.おわりに本研究では,電荷および疎水性プロファイルを精密に調整したカチオン性ジアリールペリレンテトラエステルの合理的な設計戦略を確立した 1).リード化合物である SMZ052 は,プラスミド DNA および siRNA の両方のプラットフォームにおいて,市販の送達試薬に匹敵する核酸送達性能を示した 1).重要な点として,この化合物の細胞内取り込みはエンドサイトーシスとマクロピノサイトーシスの両方を介しており,その機能性は哺乳類細胞にとどまらず,植物原形質体にも及ぶ.― 17 ―輸送効率、複合体形成効率、および物理的性質(Marvin Sketch 計算での LogD および pKa)との関係

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