ことが示唆された.以上より,SbzP は SAM の g- 脱離以降のアザインダンジヌクレオチド形成反応は自発的に進行すると考えられる.その一方,b-NAD と b,g-unsaturated quinonoid はペリ環状反応での遷移状態構造は計算では導かれず,この機構での反応は可能性が低いことが示された.NAD を基質として受け入れる二次代謝産物生合成酵素の報告は,SbzP 以前はなかった一方,SAM を受け入れる二次代謝 PLP 酵素はいくつか知られている.ACCS 以外では,Vibrio 細菌のクオラムセンシング誘導化合物 CAI-1 の生合成中,b,g-unsaturated quinonoid を形成後 Ca 位から acyl-CoA への求核攻撃を触媒する CqsA,ヌクレオシド抗生物質 muramycin の生合成中,b,g-unsaturated ketimine を形成後 ADR-GlyU のアミノ基から C-b 位への求核攻撃を触媒する Mur24 が報告されている.SbzP とそれぞれの酵素の反応性の違いは興味深いが,アミノ酸相同性は,SbzP に対して ACCS は 15%,CqsA は 10%, Mur24 は 11% であり,3D 構造モデルでも類似しておらず,その構造比較は容易ではない.全ての酵素が,Class I PLP 酵素に属するが,それぞれ別の進化を遂げたものと推察される.おわりに興味深いことに,SbzP ホモログは 50 種以上の多数の放線菌と Pseudomonas,Phenylobacterium,Chloroflexi などのグラム陰性細菌,シアノバクテリア Nostoc,粘液細菌 Sorangium に至る多数の細菌に分布している.これらは多様な二次代謝酵素遺伝子とクラスターを形成しており,これら生合成遺伝子群によって,NAD を基質とした生成物より天然物の骨格が形成される,新規二次代謝経路が幅広く存在することが示唆された.これらのうちのいくつかについて,遺伝子破壊株を構築し,野生型と比較することで,新たな NAD 由来天然物の開拓に取り組んでいる.NAD と SAM を受け入れる生合成酵素 SbzP の発見は新たな補酵素天然物ファミリーの発見につながる生合成研究として新規性の高い発見であった.それだけでなく,本発見は SAM を受け入れるPLP 酵素の反応多様性を拡充し,その構造解析により,SAM を受け入れるタンパク質の構造基盤についての知見を拡大した.SAM 結合に加えて,本酵素の NAD 結合部位は Pfam などでは検出されない,新規性の高い領域であり,今後,新たな結合モチーフを指標に新規 NAD 生合成酵素の発見,エンジニアリングによる新規 NAD 化合物の創出が見込まれる.実際に,我々はヒトの微量補酵素である NGD (nicotine guanine dinucleotide),NHD (nicotine hypoxanthine dinucleotide) を基質としたアザインダンジヌクレオチドの生産に成功しており,その基盤を築きつつある (unpublished data).また,糸状菌の二次代謝経路中では,Enzyme similarity tool (EFI) を用いて,糸状菌ゲノムよりSAM を受け入れる PLP 酵素が見出された例が存在し,近年のゲノムマイニング技術の高度化によるさらなる特異な補酵素代謝酵素発掘の可能性が示されている.今後,NAD,SAM をはじめとする,さらなる新規補酵素代謝酵素発掘,機能解明が期待される.謝 辞本研究の共同研究者は,筆者の研究室の研究員,東京大学大学院薬学系研究科天然物化学教室の阿部郁朗教授,森貴裕准教授,東京大学大学院農学生命科学研究科生物情報工学研究室の寺田透教授,カリフォルニア大学化学科の Dean Tantillo 教授をはじめとした研究員,学生の皆様です.理化学研究所の先端技術プラットフォームには,タンパク質,低分子化合物の相互作用の解析技術と機器の提― 183 ―
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