令和6年度_2024_助成研究報告集
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さらに,SAM の結合にはどのアミノ酸が重要であるか確かめるために,ドッキングシミュレーションを行うと,F457, R466, Y699 で形成される site1,F413, Y418 と Loop6 で形成される site2 の両方の位置に SAM が結合可能であることが示された ( 図 3cd).site1 では,SAM の adenine 部がY699 との水素結合と R466,F457 との相互作用によって,site2 では,F413 が SAM のスルフォニウムカチオンとの p-cation 相互作用,Y418 がアデニン部の p-p 相互作用,R791 が SAM カルボン酸との水素結合,D462 がリボース水酸基との水素結合によって,SAM が保持されることが示唆された.Site2 では,SAM のアミノ基,PLP C-4’ との距離は 3.9Åであり,SAM と PLP は十分反応しうる位置に存在することが示された.Y460,Y525 のフェノール性水酸基は SAM C-b 位への距離は 3.4Å,4.2Åの位置に存在し,いずれかが,SAM から b,g-unsaturated quinonoid を形成するのに必要な g- 脱離を触媒するための,塩基として働く可能性が考えられた.Y525 はエチレンの前駆体であるアミノシクロプロパンカルボン酸を合成する ACCS にも保存されており,本反応においても塩基としての役割が示唆されており,本酵素においても同様の役割が予想されたが,意外なことに,Y525F変異体は,SAM が消費されて生じる 5’-methylthioadesine (MTA) の生産は野生型酵素と変わらず,PseP,SAM 反応のストップトフロー解析においても b,g-unsaturated quinonoid を示す 520 nm の吸収が観測されたことからも,Y525 は塩基としての働きは示さず,Y460 がその役割を示すことが示唆された.Y460 はその変異によって,b,g-unsaturated quinonoid の生産が失われるが,PLP リン酸基の結合にも関わっており,触媒中複数の役割を持つことが予想される.さらに,それぞれのアミノ酸残基の SAM 結合における重要性を示すべく,それぞれ変異体での MTA 生産を検出した.その結果,F457A, R466A, Y699F においては MTA 生産が大きく減少した一方で,F413A, Y418A では大きな減少は見られず,SAM 認識における site1 のアミノ酸の重要性が示された ( 図 3b).Site2 はアミノ酸残基への点変異では大きな活性の減少は見られなかったため,loop6 との疎水性相互作用が,より重要であるということが予想された.SbzPQ 生合成下流の GNAT 酵素の SbzI は,スルホンアミド系抗生物質アルテミシジンの生合成において,SbzPQ 生成物 azaindane dinucleotide アミノ基への 2-sulfamoylacetyl (2-SA) 基の転移を触媒する.多くの GNAT 酵素は acyl-CoA を基質として利用するが,SbzI はキャリアタンパク質(CP) に結合した 2-SA 基質を認識する.筆者らは,SbzI と CP SbzG の複合体の X 線結晶構造,およびそれらの変異体のクロスリンクおよび等温滴定型熱量測定分析により,GNAT SbzI による CP 認識の構造的基盤を明らかにした(図4)3).さらに,変異導入,ドッキングシミュレーション,分子動力学シミュレーションにより,他の典型的な GNAT とは対照的に一般的な塩基残基を利用しないSbzI の固有の反応メカニズムの構造基盤を明らかにした.さらに変異導入により,基質範囲を拡大し,アルキル部の結合したアザインダンジヌクレオチド誘導体を生成した.また,2-sulfamoylacetate の合成に関わる SbzJ の構造機能解析を行い,その X 線結晶構造と基質特異性を明らかにした 4).― 181 ―

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