令和6年度_2024_助成研究報告集
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Kd = 127.7 ± 30.8 mM,変異型酵素は Kd >900 mM となり,野生型では SAM 非存在下で結合可能でトラクトの全長が維持されているか試験した.この PsePQ アミノ酸配列について,a-fold3 解析を行うと,PseP 構造上部に PseQ 構造が存在することが分かる.このモデル構造は 2D classification 解析において,minor conformer として存在することが分かり,トランケーションされている可能性は低いことが示唆された.その一方,SAM とそのアナログである SAH,vinylglycine をリガンドとした際には,粒子の均一性が上がらず,2D classification が進行せず,構造解析は不可能であった.また,aminovinylglycine,sinefungin を基質とした際には,アポ体構造のみが得られ,複合体構造は得られなかった.また,特筆すべき点としては,C 末の PseP(PLP 結合ドメイン ) の構造のみが得られ,N末の PseQ の構造は得られなかった点である.タンパク質の安定性を調べるために,SEC-MALLS 解析を行い,クライオ電子顕微鏡解析に用いたタンパク質は欠損なく,全長のホモダイマー構造を保っていることを明らかにした.N 末の PseQ ドメインを含めた PsePQ 全長の Alphafold3 構造を解析すると,クライオ PseP 構造とよく重なり,解析データの 2D classification で観測された一部の minor構造コンフォメーションと一致する構造が得られることが判明した.これらのデータより,PseQ 部位は固定されておらず,様々なコンフォメーションを取るために,データ解析の後,一定の構造として現れないことが示唆された.基質結合部位の精査の結果,PsePホモダイマーのモノマー間に,b-NAD が保持され,アデニンが monomer B の F457,R466 によって,二リン酸が R466 によって,ニコチンアミドリボシドが monomer A の Y413,Y418 と monomer B の D462 と Loop 6 によって保持されることを明らかにした ( 図 2c).それぞれのアミノ酸残基に変異導入を行った所,F413A, Y418A, F457A, R466A, Y699A のいずれも 80% 以上のアザインダンジヌクレオチド生成の減少が見られ,それぞれの基質保持における重要性が示された ( 図 3a).その一方で,アデニン,リン酸の保持に関わるアミノ酸変異体 F457A,R466A,Y699A は SAM の g 脱離によって生成する methylthioadenosine (MTA) の生産量が大きく減少した (>64%) ( 図 3b).その一方,F413A,Y418A では 105%,67% とそれぞれ活性上昇,中程度の減少に止まった.このデータより,それぞれ SAM 認識における異なる役割が示唆された.また,1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid合成酵素において,SAM の g- 脱離反応に関わる Y152 に相当する Y525 に変異を加えると,アザインダンジヌクレオチド,MTA の双方の合成活性が消失することが明らかとなり,Y525 の g- 脱離への関与が示唆された.これらの変異体の NAD 結合能を Biacore で評価すると,野生型は b-NAD とあること,変異型酵素全てで結合能が下がることが示唆された.また,thermal shift assay においても,野生型酵素についてのみ b-NAD が酵素に結合可能であることが示された.SAM の結合を評価するために stopped flow 解析を行い野生型酵素,Y413A,Y418A については SAM と酵素混合後 520 nmの吸収が 5 秒間増加し,その後減衰が見られたことから,SAM が受け入れられ,b,g-unsaturated quinonoid が生成したことが示唆された.その一方,F457A,R466A, Y699A では 520 nm の吸収は検出されず,これらが SAM 結合に関与していることが示唆された.500 mM,800 mM,1000 mMでの b-NAD 濃度,400 mM,700 mM,1000 mM での SAM 濃度で固定した場合,それぞれ SAM,b-NAD の消費速度を Lineweaver–Burk plot にて計測した所,プロット直線は y 軸平行に移動し,これより,PseP は Ping-Pong Bi-Bi mechanism にて反応が進行することをこれまで示していた.その一方で,クライオ電子顕微鏡解析では,SAM の非存在下で b-NAD が酵素に結合しており,この構造が触媒反応中の酵素構造かそれともアーティファクトなのか,議論の余地があった.そのため,東― 179 ―

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