ゲノム修復に関わる poly ADP-ribose polymerase PARP など重要な生理作用に関わるタンパク質の基質として,あるいは RNA キャップ構造の修飾反応の基質となるなど,多様な生理学的機能を担うことが知られている (Molecules 24, 4187, 2019, Nat. Commun. 6, Article number 8332. 2015).筆者は,抗腫瘍アザインダン天然物 altemicidin 生合成中,NAD が生合成反応の基質となる現象を初めて報告し,その新たな役割を示した 1).本生合成系は NAD のニコチンアミド部が PLP 酵素 (SbzP/PseP) によって求核攻撃を受け C3, C2 単位間に二回の C-C 結合形成を経て,修飾される ( 図1).このニコチンアミド部はさらに修飾を受け,リン酸結合が加水分解されることによって,Sirtuin の機能を活性化する NMN 様構造が形成され,さらに多段階修飾されることで,最終産物が生成される.生体内における NAD,NMN のニコチンアミド部の修飾反応は前例がない.化学修飾の例は存在するが,C-C結合形成によるアナログの合成例は存在せず,本生合成系は既存の分子とは全く異なる骨格の構造を作り出すことが可能である.図 1.筆者が見出した NAD/SAM を基質とした特異な NAD アナログ合成酵素反応実験方法SbzP 酵素やその生成物修飾酵素のクライオ電子顕微鏡、X 線結晶構造解析により精密機能解析を行い、その機能改変を行うことで、さらに生成物の骨格多様性を拡大し、酵素・化学法により新規活性化合物を取得することを目指した。結果及び考察SbzP( 図 2a) の安定ホモログ PsePQ を用いて,クライオ電子顕微鏡解析を行った.クライオ電子顕微鏡構造より,SbzP の基質酵素複合体構造を取得し,NAD の結合部位を同定した.そこに変異導入し,反応生成物の同定,SPR 解析,サーマルシフトアッセイを行い,その NAD 結合活性を評価した.SAM を酵素構造にドッキングし,結合部位に変異を加え,SAM から合成される MTA の検出,ストップトフロー解析を行うことによって,SAM の結合能を評価した.また,速度論解析から得られた反応機構を提示し,その矛盾を,東京大学大学院農学生命科学研究科の寺田透教授との共同研究にて,ドッキングシミュレーション,MD シミュレーションによって説明した.カリフォルニア大学Dean Tantillo 教授との共同研究にて,反応機構の QM 計算を行い,その反応性を精査した 2).SbzP ホモログの中では,PsePQ は比較的安定ではあるが,高濃度まで濃縮することができず,結晶化による構造解析は困難であった.そのため,クライオ電子顕微鏡解析により構造解析を検討した所,b -NAD 存在下解像度 2.6Åでその立体構造を取得することに成功した ( 図 2b).PsePQ は,その N 末は a-ketoglutarate(aKG) 依存性酸化酵素 SbzQ と,C 末は SbzP と相同性を持つタンパク質だが,SbzP 領域についてはクライオ電子顕微鏡構造解析が達成できた一方,SbzQ 領域は構造解析ができなかった.そこで,SDS-PAGE,ゲル濾過,SEC-MALLS 解析を行い,構造解析に用いたコンス― 178 ―
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