令和6年度_2024_助成研究報告集
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図 2.Ca2 +イメージングの最適化請者は刺激依存的に小胞体含有スパインが増加することを見出しており,CID により同程度にまで小胞体含有率が増加することを検証した.その結果,SEPT と MYO の組み合わせでは十分な小胞体含有スパインの増加を誘発することができなかった.一方で,SEPT と ER 膜タンパク質の組み合わせにおいては,有意な小胞体含有スパインの増加を誘発できた.さらに MYO と ER 膜タンパク質の組み合わせにおいても,有意な小胞体含有スパインの増加を誘発できた.以上から小胞体変形を誘発する CID を構築できたと結論付けた.計画 3:ER 局在操作による神経回路レベルの生理機能解析 神経回路レベルで CID を誘発し,E-LTP 刺激と組み合わせて L-LTP 誘発を惹起できるかを検証している.初代培養ニューロンに CID プラスミド GCaMP6f を導入し,E-LTP 誘導 / ラパマイシン処理を行ったところ,ニューロンの状態が悪化し,Ca2+ 応答が通常よりも抑制されてしまうことがわかった.そこで,原因を検証したところ,GCaMP6f の誘導によりニューロンの状態の悪化が引き起こされることがわかった.現在,プラスミド導入を避けた Ca2+ 応答検出系を構築しており,Cal520AMが候補となり,ニューロン形態の保持と E-LTP 誘導 / ラパマイシン処理が可能であることがわかった(図 2).おわりに我が国は超高齢社会を迎えており,認知症初期の時点での治療は最重要課題の一つである.薬物治療としてドネペジル,ガランタミン,リバスチグミンなどのアルツハイマー病治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬)の有効性を検討した研究があるが,軽度認知障害からの回復効果について明らかな科学的根拠がない.小胞体に関しては,小胞体ストレス応答関連分子に対して卵巣癌治療薬(PERP 阻害薬など)が開発されているが,小胞体の局在変化に着目した創薬は皆無である.近年,CID の一種である PROTAC(標的タンパク質分解誘導化合物)を応用したタンパク質分解創薬が注目されており,多くの特許出願と臨床試験が行われている 13).PROTAC は,E3 ユビキチンリガーゼと標的タンパク質とを結びつけることで,標的タンパク質の分解を引き起こす.この原理を神経系に取り入れ,CIDを用いた強制的なスパインへの ER の局在化による記憶固定化に成功すれば,既存の治療薬と作用機序が異なるタンパク質を他の分子に近づける作用を持つ新しいクラスの薬剤開発に繋がる.既存の認― 175 ―

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