で Ca2+ の放出が生じ,記憶が長期化することを見出した ( 論文投稿中 ).本研究では,これら未発表データ「刺激依存的な滑面小胞体 (ER) の移動が記憶固定化の基盤」という概念を活用した新たな創薬戦略を提案することを目的とする.具体的には,chemically induced dimerization (CID:化学的タンパク質二量体化法 ) により ER 局在を操作する技術を構築し,短期記憶を長期記憶に転換させることを狙う.既存の認知症治療薬は個々の分子を標的とした薬剤開発が中心であり,タンパク質を他の分子に近づける作用を持つ薬剤開発やオルガネラの局在変化に着目した開発は皆無であるため,本研究成果で得られる技術や化合物が創薬に繋がり,パラダイムシフトを起こす可能性を包含している.実験方法本研究では,強制的にタンパク質を会合させる技術,chemically induced dimerization(CID: 化学的タンパク質二量体化法)を応用し,SEPT とモータータンパク質 MYO に対して相互作用蛋白質ペアのモデルとして,FKBP(FK506-binding protein)と FRB(FKBP-rapamycin binding domain of FKBP12-rapamycin associated protein)を融合する.ラパマイシン添加により,SEPT-MYO-ER 複合体を作り出し,スパイン内に ER を侵入させる技術を構築する.この技術と申請者が構築してきた行動 / 回路 / 細胞レベルの解析系を用い,スパインへの ER 局在と LTP の持続との因果関係を検証する.さらに,短期記憶を長期記憶に転換できることを示す.計画 1:ER 局在を人工的に誘発する相互作用分子の決定・ SEPT と MYO の N 末と C 末に対して相互作用蛋白質ペアのモデルとして,FKBP(FK506-binding protein)と FRB(FKBP-rapamycin binding domain of FKBP12-rapamycin associated protein)を融合したプラスミドを作製する.・ FKBP と FRB は,有機小分子ラパマイシンの添加によって結合する性質を持つため,ラパマイシン存在下でヘテロダイマー化し,人工的に SEPT/MYO 複合体を構築する.株化細胞に導入し,ラパマイシン添加による複合体形成を指標に最適な組み合わせを決定する.バックアップ:十分な複合体形成が観察できない場合は,CID によりオルガネラ間を架橋する際に使用される ER 膜タンパク質と SEPT もしくは MYO の組み合わせを試行する.計画 2:ニューロンで ER 局在操作の動作確認初代培養ニューロンに CID プラスミドをリポフェクションで導入し,ER 含有スパインの割合を算出する.計画 3:ER 局在操作による神経回路レベルの生理機能解析 初代培養ニューロンに CID プラスミドとニューロンの活動を可視化する Ca2+ プローブ(GCaMP6f)を導入し,E-LTP 誘導 / ラパマイシン処理前後で Ca2+ 応答のイベント回数を計測し,E-LTP 誘導刺激で L-LTP が出現することを観察する.結果及び考察計画 1:ER 局在を人工的に誘発する相互作用分子の決定SEPT と MYO に対して相互作用蛋白質ペアのモデルとして、FKBP(FK506-binding protein)と― 173 ―
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