― 162 ―影響すると考えられ,ヒトシングルセルシークエンスデータの解析結果と一致するものであった(図1F).また,担がんマウスから抽出した CD8 陽性 T 細胞に対し,in vitro において抗 CD3 抗体と抗CD28 抗体による刺激と,リコンビナント Sema6D 蛋白による刺激を加えたところ,Sema6D の刺激が加わることで CD8 陽性 T 細胞の活性化と増殖が抑制され,Sema6D が T 細胞受容体及び共刺激シグナルの伝達を阻害することにより、CD8 陽性 T 細胞を抑制していることが明らかとなった(図1G).最後に,頭頸部がんの臨床検体を用いて多重免疫染色を行い,データベースやマウスモデルから得られた知見の検証を行った.頭頸部がんの臨床検体を用いた多重免疫染色から,SEMA6D が高発現の腫瘍ではがん微小環境における活性化した CD8 陽性 T 細胞の細胞数が少ないことが明らかとなった(図 1H).以上から,がん微小環境に発現する Sema6D は,CD8 陽性 T 細胞の腫瘍内への浸潤や活性化,増殖を抑制的に制御することが示された 10).おわりに我々は過去に,がん微小環境に発現する Sema4A は,腫瘍内の CD8 陽性 T 細胞に対し mTORC1活性の上昇,ポリアミン生合成の促進を介して増殖能と細胞障害活性を高めていることを報告した.一方で,がん微小環境に発現する Sema6D は上述の通り,CD8 陽性 T 細胞の腫瘍内への浸潤や活性化,増殖を抑制的に制御し,抗腫瘍免疫を減弱させることが示された.現在,Sema4A と Sema6D のバイオマーカーとしての有用性の検証を進めている.また,がん微小環境における免疫セマフォリン分子の発現を制御するメカニズムを解明することで新規治療法の開発につながる可能性があり,ハイスループットにセマフォリン分子の発現を同定する実験系の樹立を行い,解析を継続中である.謝辞本研究の遂行に当たり,研究助成による多大なご支援を賜りました公益財団法人 中外創薬科学財団に,心より感謝申し上げます.引用文献1. doi: 10.1016/0092-8674(93)90625-z. 1993.2. doi: 10.1038/nature01784. 2003.3. doi: 10.1126/science.1105416. 2005.4. doi: 10.1038/nm.2489. 2011.5. doi: 10.1038/nature11000. 2012.6. doi: 10.1038/ncomms1495. 2011.7. doi: 10.1038/ni.1885. 2010.8. doi: 10.1016/j.immuni.2005.01.014. 2005.9. doi: 10.1126/sciadv.ade0718. 2023.10. doi: 10.1172/jci.insight.166349. 2024.
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