令和6年度_2024_助成研究報告集
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がん細胞の PD-L1 発現が臨床応用されているが,その予測精度は不十分である.従って,ICI の効果を予測する新たな BM を同定し,最適な治療レジメンを選択するために患者を個別化すること,さらには ICI の効果を増強する新規治療法を開発することはがん治療において非常に重要な課題である.神経ガイダンス因子であるセマフォリンは,発達期に神経軸索が伸長する際の反発性ガイダンス因子として同定された 1).しかし,セマフォリンの機能は神経系にとどまらず,血管の形成 2, 3)や骨の恒常性 4, 5),細胞骨格 6)や細胞移動 7),免疫細胞の分化誘導 8)など,生体内において様々な機能を有することが報告されている.我々は,セマフォリンのうち免疫系への影響が報告されている免疫セマフォリンの一種であるセマフォリン 4A(Sema4A)が CD8 陽性 T 細胞を活性化し,その腫瘍における発現が PD-L1 発現と無関係に抗 PD-1 抗体の治療効果と相関することを見出した 9).これらの知見から,がん微小環境に発現する免疫セマフォリン分子は,ICI の効果を予測する新規バイオマーカーとして有用であり,その発現を制御することで ICI の治療効果を増強する新規治療法を創出できる可能性がある.本研究では,Sema4A と同じ免疫セマフォリンの一種とされる Sema6Dの腫瘍免疫における役割を解明した.実験方法① 公開されているデータセットを解析し,腫瘍環境における免疫セマフォリンと T 細胞の活性化の相関を検証した.② 免疫セマフォリンの強制発現細胞株を作成し,担癌マウスモデルを用いて腫瘍環境に与える影響を検証した.③ 担癌マウスから抽出したリンパ球に対して in vitro においてリコンビナントセマフォリン蛋白による刺激を加え,T 細胞に与える直接的な影響の評価を行った.④ 頭頸部がん患者の腫瘍切片で SEMA6D の定量 PCR を行い,SEMA6D の発現と T 細胞の活性化との関連性を検証した.結果及び考察ヒトの公開がんデータベースである The Cancer Genome Atlas(TCGA)を用いて Sema6D の発現が抗腫瘍免疫に与える影響を調べたところ,腫瘍における SEMA6D の発現と CD8 陽 T 細胞を示す CD8A,活性化を示す PDCD1,細胞障害活性を示す IFNG や GZMB が負に相関していることが分かった(図 1A).また,頭頸部がんの公開シングルセルシークエンスデータを解析したところ,がん微小環境においては腫瘍細胞,繊維芽細胞,内皮細胞が発現していた.これらの結果から,Sema6D は抗腫瘍免疫に対し抑制的な作用をもつことが示唆された.次に,口腔内担がんマウスモデルを用いて,Sema6D が抗腫瘍免疫を抑制するメカニズムを探索した.頭頸部がんの細胞株 MOC2 に対し,Sema6D の強制発現株を作成しマウスに担がんしたところ,腫瘍は増大傾向を示し,がん微小環境における活性化 CD8 陽性 T 細胞数は減少した(図 1B, C).一方,MOC2 を Sema6d ノックアウトマウスに投与したところ,野生型マウスと比較して腫瘍は縮小し,がん微小環境には活性化した CD8 陽性 T 細胞が増加していた(図 1D, E).また,Sema6d ノックアウトマウスと野生型マウスを用いた骨髄キメラマウスを作成し,MOC2 を担がんしたところ Recipientが Sema6d ノックアウトマウスであれば腫瘍が縮小したため,間質の発現する Sema6D が表現型に― 160 ―

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