令和6年度_2024_助成研究報告集
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はじめに骨髄異形成症候群 (Myelodysplastic syndromes; MDS) は,血球形態の異常を伴った骨髄不全と急性骨髄性白血病 (Acute Myeloid Leukemia; AML) への移行を特徴とし,高齢者に好発する難治性の慢性骨髄性腫瘍である.MDS では,3’ スプライス部位の認識に関わるスプライシング因子(主に,SF3B1, SRSF2, U2AF1, ZRSR2 の 4 遺伝子)に高頻度に遺伝子変異が認められる 1).これまでに,我々を含む複数のグループにより,各スプライシング因子の RNA への結合部位の違いを反映して,各スプライシング因子変異の標的スプライング異常には相違が認められることが明らかになった一方,異なるスプライシング因子の変異マウスモデルは,MDS の表現型と骨髄再構築能の低下という類似した表現型を示すことが報告された 2-4).したがって,各スプライシング変異により惹起されるスプライシング異常にはとどまらない他の機序がスプライシング因子変異による MDS の病態に関与していることが示唆されるがその機序は明らかになっていない.近年,スプライシング因子変異により R-loop 構造が蓄積してゲノム不安定を惹起することが細胞株の検討で明らかにされたが 5),スプライシング因子変異により R-loop の形成やプロセシングの異常が生じるメカニズムや,各スプライシング因子変異で生じる異常 R-loop の標的は明らかになっていない.そこで,とくに R-loop 構造の異常に起因する転写 / 転写調節の異常という観点から,スプライシング因子変異をもつがん細胞で生じる発現異常や転写後調節の異常を明らかにし,スプライシング異常にはとどまらない機序による MDS の分子病態を解明することを明らかにすることを目指して本研究を行った.実験方法1. 異なるスプライシング因子変異による MDS の病態の比較解析我々はこれまでに,MDS で最も高頻度に認められるスプライシング因子変異の一つである Srsf2 p.P95H 変異に着目し,条件付きノックインマウスを用いた解析により,Srsf2 変異マウスが移植による造血ストレス下で MDS を発症すること,また,変異型 Srsf2 が野生型とは異なる RNA 結合モチーフを認識することで,広範なスプライシング異常を誘導することを明らかにしている 4).本研究では,SRSF2 とは異なるスプライシング因子変異による MDS の発症機構とその分子病態を明らかにすることを目的として,MDS で同様に高頻度に認められる U2af1 p.S34F 変異に関する条件付きノックインマウスを作製・解析し,Srsf2 p.P95H 変異マウスと表現型および分子病態の比較検討を行った.2. マウス造血細胞を用いた R-loop ゲノムワイドマッピング手法の確立R-loop を評価するアッセイとしては,特異的抗体を用いた細胞免疫染色による定量と,近年報告が相次いでいる次世代シーケンス技術を用いたゲノムワイドなマッピング法がある.後者には,CHIP-seq を 改 変 し た DRIP-seq,R-ChIP 法 の ほ か,CUT&RUN や CUT&Tag(Cleavage Under Targets and Tagmentation) を用いた手法が報告されている.なかでも,CUT&Tag 法では,クロマチンを抗体と直接インキュベーションすることにより,断片化とライブラリー調製を一度に行うことができるため,より少ない細胞数での評価が可能となる 6).これまで,CUT&Tag は主に細胞株での実験結果の報告が主であったため,我々はマウスの造血幹前駆細胞を用いた CUT&Tag により,ゲノムワイドな R-loop の分布を定量的にプロファイリングするための実験系の確立に取り組んだ.マ ウ ス Lineage negative c-Kit 陽 性 細 胞 を FACS に よ り sorting し,500,000,200,000 ま た は ― 155 ―

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